昭和に眠る至宝〜佐良直美『ゴールデン☆ベスト』

 聴いていると安心する声。
人によって感じ方が違うのは承知の上で、でもこの人の声はたぶん、万人の心をホッとさせる力があるのではないかと俺は思う。
 卓越したボーカルテクニック、ハートを包み込むような声の響かせ方、美しい発音、そして安定したアルトの声。聴く者の心を安心させるその歌声について、要素をバラして分析すればその要因は色々あるとは思うけれど、やっぱり歌い手その人の生き方・在り方そのものに縁(よ)るところが大きいように思う・・・なんて言ってしまうとちょっと肩入れし過ぎなのはわかっているのだけれど。。。
 その歌手は、佐良直美さん。通称・サガラ兄貴(笑)です。

 デビュー当初、ウチの姉が大ファンで年中レコードを聴いていたから、俺も当時から耳に馴染んでいた歌手のひとりではあるのだけど、俺としては歌手としてよりホームドラマ肝っ玉かあさん」や「ありがとう」での女優だとか紅白司会者まで務める“マルチタレント”のイメージの方が強くて、本業の歌手としてはあまりピンと来なかったのね。それに、実質引退の引き金になったアノ事件のイメージもやっぱり強くてね。
 でも評判につられて買った佐良さんの3枚組ベスト盤を聴いて、本当に目からウロコでした。アニキ、誤解していてゴメンヨ、てな感じ(笑)。声の良さ、曲の良さ、歌の巧さ、三拍子揃った無敵の歌謡曲歌手、それが佐良さんだったのですね。
 思えば、このタイプの歌手が第一線から消えてどのくらい経つのだろう。今や歌手といえば、手をヒラヒラさせながらキンキン声を張り上げるディーバ気取りの小娘ばかりで、リスナーはみんな、癒しだとかα波だとかいう、レコード会社の宣伝文句に騙されているだけじゃないの?みたいな気がしてね。どんな歌でも歌えて、声にも存在感があって、たとえば声のトーンだけで人生の機微までをも普遍的に伝えるような力のある歌手って、もはや表舞台では見当たらなくなって久しいように思う。安心感のある、そして説得力のある歌声。それこそが歌の持つ、本当の癒しなのにね。。。もしかすると、ちあきなおみとか、引退直前の百恵さんとかが最後だったのかしらね。(敢えて言うならドリカムの吉田美和なんかは、惜しいところまで行っていたのかもしれないけど。)
 そう、佐良さんはそんな歌手。まさにディーバ。(両性具有の・・・?笑)とくに彼女(アニキ?)のすごいところは、ジャズで鍛えたその歌唱力にまかせて演歌に色目を使ったりすることもなく、終始“歌謡ポップス”というジャンルの中で名曲・名唱を量産したこと。いずみたくや筒美先生、ハマクラさんに中村泰士、浜圭介、小椋佳など錚々たる面々が手がけたその持ち歌は、親しみ易くも上品な、まさに歌謡曲の王道たる粒揃いの名曲ばかりで、ホント驚かされる。(その上自作曲やカバーの出来も文句なしなのよね。)
 そんな佐良アニキ、一部歌謡ファンの再評価のみで終わるのではなく、もっともっと多くの人に彼女の歌声を聴いてもらいたいと思うばかり。昨年、本当に久しぶりの新曲もリリースしたことだし、少しでも露出を増やしてくれると良いのだけど・・・どうやらご本人には全くその気はないらしいようで。いのちの木陰
 ホントに捨て曲なしのこのベスト盤なんだけど、最後に俺が特に気に入ったオススメ曲をご紹介。

  • わたしの好きなもの(詞:永六輔、作・編曲:いずみたく 1967年) オシャレなボサノバ。囁きのAメロからサビではメロウに朗々と歌い上げる佐良アニキ。
  • 二十一世紀音頭(詞:山上路夫、曲:いずみ、編:大柿隆 1969年)  「♪これから31年経てば/この世は21世紀/誰でもみんなが幸せになり/平和に暮らしているかしら。」メロディーも詞も、このノー天気さに癒される、21世紀人の俺。いやいやアニキ、31年前の方が全然、シアワセで平和でしたよ、って。
  • ギターのような女の子(詞:橋本淳、作・編曲:筒美京平 1969年) 黄金コンビによるドリーミイ&至福のバカラックサウンド。「♪ギターのような〜ア、ア、アン〜」というハミングがとてもチャーミングで、こんなニュアンスも自然に出せる佐良さんの器用さが良くわかる。
  • 華やかな孤独(詞:岩谷時子、曲:いずみ、編:松岡直也 1972年)松岡さんのゴージャスなジャズ・サウンドをバックに、まるで宝塚の男役のように男らしく(?)歌い上げるナンバー。これは本格派歌手としての顔。でも詞は、ゲイにとってはあまりに切なくて沁みるのです。
  • ひとり旅(詞:吉田旺、曲;浜圭介、編:萩田光雄 1976年)ご存知、ひばりさんや天童さんもカバーしたカントリー・フォークの傑作。さっぱりしていて少し翳りのある佐良さんの、ちょっぴり切ないボーカルが泣かせるのよね。続くシングル「速達」も同系統ながら、こちらは間奏で飛び出すアニキの素晴らしいヨーデル(ヨロレヒ〜〜)に思わず背筋がピーンとなる(笑)、こちらも名曲。
  • 翔ぶ”って何ですか(詞:小椋佳、曲:佐良直美、編:萩田光雄 1979年)マスコミに踊らされる世相を皮肉った社会派ソング。(何だか後々の彼女を予見させるような・・・。)詞にぴったりとマッチした、見事な構成の自作曲で、ここでもマルチな才能を存分に発揮してくれている。カッコイイ!

 う〜ん、これ以外にも本当に名曲がぎっしりで、とても紹介しきれませんわ。皆さんも機会があったら是非聴いてみて。損はしないと思いますよ。