さりげない技巧派。21世紀の“ため息路線”シンガー・手嶌葵
- アーティスト: 手嶌葵
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- 発売日: 2011/11/09
- メディア: CD
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ちなみに初代“ため息路線”というのは、森進一さん&青江三奈さん。60年代後半にしゃがれ声でブルース演歌を唸っていた、と〜っても濃いコンビのことでして。もちろん、60年代の“初代・ため息コンビ”と、手嶌さんのまるで天にも昇るようなボーカルとは全く別物ですので、そこのところ誤解されませんように(って、あたりまえよ!笑)
今回取り上げる個性派シンガー、手嶌葵さんのボーカルについて表現しようと考えていたら、ウィスパー路線(クレモンティーヌ系)ともちょっと違うしファルセット(薬師丸系)とも違うし・・・という感じで、結局“ため息路線”というのが一番ピッタリくるような気がした、ということで。
ちょっと変な書き出しになってしまいました。
さて、そんな葵さんのボーカル。全体にス〜と息が混じったハスキー声で、低音は特にかすれ気味。一聴した限りではシロートっぽい印象もあるのだけれども、それでいて高音部への展開がフワッととてもなめらかで、すぐに音域がかなり広いことに気づかされるのよね。おまけに音程のフラつきもなく安定している。そう、彼女、実はかなりの技巧派で実力派なのだ。だから、聴いていて心地良い。
音符の終わりにビブラートをかけずに、フッ!と息を抜くように音を切るのが彼女の歌い方の特徴で、そこがウィスパーのように聴こえなくもないのだけど、おそらく発声法がしっかりしている為なのか、声に丸みがあって独特の温かさがあるのよね。小声でピーチクパーチク囁く感じではなくて、ホッと温かい息を耳元に吹きかけられるような感じ・・・だから“ため息”なのだ。
CM曲やこれまでの代表曲を集めたこのアルバム『Collection Blue』を聴くと、手島葵というボーカリストのこの“ため息”の癒やし声がいつの間にどれだけお茶の間に浸透していたのか、ということに今更ながら気づかされて驚く。「この道(山田耕筰)」も「流星(吉田拓郎)」も、そう。何気なくテレビCMで耳にしていて、“あ、いいな”と思っていたあの声。
それこそが手嶌葵というボーカリストの凄さなんだと思う。ス〜っと耳から入り込んで、いつの間に心にまで届いてしまっている。例えば音程が不安定だったり、発音に変なクセがあったり、もしその歌声に少しでも不快な要素が入り込んでいたら、それは成し得ないこと。そう、さりげなく上手で、心地良い歌声。
だからと言って彼女がただの「癒やし系」ではないことは、アルバムを通して聴けば明らかで、ジャズのリズムで洒落たハミングをサラリとこなす「真夜中のメリーゴーランド」や、ニュアンスたっぷりの英語を駆使してある意味本家(ベット・ミドラー)を凌駕するほどエモーショナルな仕上がりの「The Rose」、スザンヌ・ヴェガを彷彿とさせるアダルトな「Because」(菅野よう子とのコラボ)など、実に幅広い顔を持つシンガーであることがわかる。
フェイクたっぷりに黒っぽく声を張り上げるDIVA系もそろそろ飽きられてきたこのごろ、ヘタッピな歌は嫌だし、かと言って平原アヤカさんのような“私のテク、存分にご披露するわ”系はちょっとウザイし・・・みたいなあなた。この、さりげなくスルっと心に入ってくる手嶌葵さんの技巧派ボーカル、オススメかもしれませんよ。