セイコ・アルバム探訪22〜『My Story』

My Story(紙ジャケット仕様)
 1997年5月21日発売。あ〜、このアルバムがもう16年前なのね…とセルフ(暗黒)期の余りの長さに今更ながら、ため息ばかりの出るワタクシ、聖子ファン歴34年。
 「あなたに逢いたくて」の大ヒット(ミリオン)でノリノリだった、当時の聖子たん、その勢いで次作シングル「私だけの天使〜Angel〜」もスマッシュヒットして、その曲を収めたこのアルバム『My Story』もアルバムチャート最高位5位、15万枚の売上げを記録したのよね。これは80年代末期の『Precious Moment』(最高位6位、17万枚)に肩を並べる成績だったりするわけで、何やかんや言ってもね、結局90年代の聖子はずっと、いわゆるJ-pop全盛時代においても、一定のアーティストパワーを持ち続けていた、ということ。それだけでもスゴイことよね、今振り返ると。
 さて、そんなわけでこの『MY Story』。その後『My Pure Melody(2008)』『My Prelude(2010)』と続く“マイ・シリーズ三部作”の記念碑的作品ね。(←なわけないでしょ!笑)
 冗談はさておき実はワタクシ、このアルバムを最近改めて聴き直してみて、結構好きになってしまったのです。聖子ファンとしては、リョー・オグラ色の濃いこの時期のアルバムはどうしても認めたくない「意地」のようなものがあるのだけど(苦笑)、残念ながら、16年経ってこれを聴いてみると何だかとても“しっくりくる”、妙な感じがあるのです。それは、無意識のうちに「もう戻らない聖子の失われた(セルフ期の)20年」をどうにかして再評価したい気持ちがあるからなのかも知れず、また一方、20年以上の長きにわたって刷り込まれてきた“Seiko&Ryo”の頑迷で陳腐なサウンドに、いつの間にか耳が慣らされてきてしまった結果なのかも。なんてね。
 でもね、これはホンネだけど、カンダマサキと離婚したばかりのセイコが本当の自分を曝け出そうとしたようなこのアルバム『My Story』には、ガンコなセイコがセルフに移行して20年間、頑なに作り上げようとしてきた音楽(そのクオリティ・音楽的評価は別として)が最も良く表現されたアルバムのような気がして、このとことん素直(陳腐)でキャッチーなメロディも、ストレート過ぎて(稚拙で)ただとにかくポジティブなだけの歌詞も、何だかとても愛おしく感じられてしまうのよね。
 問題はセイコ本人が、このアルバムの中にあるような、セルフ作品の中の“隠れ名曲たち”をどれだけ自分で再評価出来るかのような気がするのだけど、どうも、彼女自身、自作曲への思い入れが足りないようで、そこが残念ね。
 というわけでこの作品、確かに、今聴くと隠れた名曲が少なくないのです。
 では恒例の曲紹介。全曲作詞:Seiko Matsuda(英語詞Suzi Kim)、作曲:Seiko&Ryo Ogura、編曲:鳥山雄司

  • So Much In Love

 オープニングは粘っこい重めのビートがカッコいいダンス・チューン。“So Much In Love”というと爽やかなオールディーズのアカペラ曲を思い出すのだけど、それとは大違い、こちらは「私だけをいつでも見つめてて」という、別な意味でも“重い”曲。

  • 波乱万丈

 波乱万丈、というと泣きの徳光さん?な印象だけど、こちらはダンス・ビートに乗せて「♪ 人生は波乱なもの 強く生きよう」と歌うポジティブ聖子全開の軽快なナンバー。これは今回聴き直して、シンプルな歌詞とメジャー・マイナーのキャッチーなメロディーがマッチしていて、素直に“とてもイイわ!”と再評価した曲のひとつ。

  • Friend

 友達は大切、という至極あったりまえの歌詞。曲調もごくフツーのポップスで、これは凡作。でも凹んでいるときに友達と飲んだりして憂さ晴らししたあとに聴いたら、意外に沁みるかしらね。平常時はどうぞ、迷わず、スキップ!してね(笑)。

  • 私だけの天使〜Angel〜

 97年4月23日発売の先行シングル。オリコン最高位5位、25万枚を売り上げたヒット曲。一人称を“ママ”として愛娘サヤカへの想いを歌ったバラード。「♪ 何より素敵よ あなたがこの世に 生まれてきたことが」って、あまりにもストレートだけど、何だかもうそれで充分、わかるわ聖子たん!と言いたくなってしまう。

  • あなたのその胸に

 これは佳曲。「私だけの天使」のカップリング曲で、土曜ワイド劇場エンディング曲でした。オーソドックスなメロディーのポップスなのだけど、横軸で当時のビーイング系をはじめとした“J-Pop”の商業的作品群と比べてみれば、この聖子&小倉のバラード、決して劣ってはいないのです。「♪ この想いを 伝えたくて」のファルセットを絡めたメロディーがキモね。

  • 輝く未来に

 続いてはリズミカルな軽目のポップス。言葉が完全に上滑りしていて、似非ポジティブな印象だけど、個人的には爽やかなメロディが好きな作品。

  • 切なすぎる心

 これは隠れた傑作バラード。イントロ、歌いだしともに意表をつくコードで導入し、サビ前も意図的にテンポをずらしたりで、バラードながら中々テンション高いつくり。ちなみに“切なすぎる心”とは、愛する彼の、別の彼女への(一方的な)恋心であると同時に、主人公である「私(♀)」の、彼への恋心でもあるという、わけのわからない(ゆえに妙にテンション高い)設定。聖子たん惜しい、消化不良でアウト!

  • Jealousy 

 イントロのサックスからしてセクシーなクラブ・ミュージック風サウンド。聖子たんもウィスパー気味のセクシーなボーカル。オープニングでのコーラスとの掛け合いがなかなかカッコいい。

  • 二人の愛のかたち

 文字通り、カンダ氏との別れを彼女なりに綴った赤裸々な歌詞にドキリとさせられる。「♪ まわりの人はいろいろ言うわ 二人の愛 嘘だったと 噂するけど」。なんてね。切ないメロディーがこれによく合っていて、今の聖子が歌ったらまさに演歌になってしまいそうだけど(笑)、当時の聖子の美声のお陰でかろうじて「バラード」に踏みとどまってます。でも俺、この曲の切なさ、好き。

  • Sing

 オーラスは、壮大な印象のミュージカル風カーテンコール・ソング。でもさあ、こんなに大袈裟な曲は、むしろコンサートでもどんどん大袈裟に使いまくってあげないと、時間とともにすぐに鮮度を失って「恥ソング」の仲間入りをしちゃうのよね。そんへん、聖子さんももう少し気を遣ってほしい。悪くない曲なのに、本当に勿体ないと思う。
 
 今回もお付き合い、ありがとうございました。