『組曲(Suite)』中島みゆき

組曲(Suite) みゆきさんの定期便。今年もまた。
 齢六十を越えてなおも衰えぬこの創作意欲に恐れ入る。
 Suite(組曲で「スウィート」と読むこの作品。冒頭の「36時間」から、優しいみゆきさんの声に癒される。アルバムを通じての強いメッセージ性は無く、そのぶん、優しくて聴きやすいアルバム。(アルバムタイトル的にも『短篇集』、そして前作『問題集』あたりと同系統、かな?)
 それにしてもこの人、収録曲のタイトルに選ぶ言葉(単語)のセンスが相変わらずスゴイ。
 これまでも、「糸」「慟哭」「世情」「悪女」「夜曲」「南三条」など、短い単語(熟語)だけで心乱されるようなものから、「ばいばいどくおぶざべい」「ボギーボビーの赤いバラ」「ミルク32」「F.O.」「シーサイド・コーポラス」「あり、か」・・・などなど、いったい何?というような不思議なタイトルまで、天才ゆえのただシンプルな閃きなのか、はたまた巧妙な戦略なのかわからないけれども、とにかくみゆきさんの作りだす曲のタイトルは「引きが強い」。聴きたいと思わせてくれる。これはスゴイことで。(聖子さんのセルフ作品の、タイトルからは全く興味を惹かれない数多の曲たちを考えると、余計にね。苦笑)
 今回も「36時間」に始まって「イカM4」、「霙(みぞれ)の音」、そして「休石(やすみいし)」。
 これらのタイトルが並ぶだけで、果たしてその曲の中にどんな世界が展開されているのか興味を掻き立てられて、早く聴いてみたい、と誘い込まれてしまうのだ。
 先日のNHK「SONGS」では、ライフワーク“夜会”を通じて展開してきた独創的な表現手法についてご本人がモノローグ的に語る構成で、とても面白かったのだけど、やはりそこから感じられたのは、この人はやっぱり「芸術家」なのだな〜ということ。
 まるで呼吸するように、インスピレーション・素材のインプットと、表現作品としてのアウトプットを繰り返す人。そんな感じ。
 だから、今回のアルバム『組曲(Suite)』が、たとえ一貫したテーマ性を含んでいなくとも、みゆきさんが其処此処で遭遇した“引っかかり”や“閃き”が、曲のタイトルから、詞のフレーズから、そこはかとなく滲み出してくる感じを、凡人である私なんぞは何となく雰囲気として掬い取れれば正解、なのかも知れない。なんて。
 肩の力が抜けた印象のこの作品を聴いて、そんな風に思えたワタシ。