セイコ・アルバム探訪2016冬編〜その2『Snow Garden』

 今年の年末も紅白に出演する聖子さん。歌う曲は「薔薇のように咲いて桜のように散って
【早期購入特典あり】薔薇のように咲いて 桜のように散って(初回盤A)(DVD付)(特典:ポストカード付)に決まったそうで、やはり今年のこの曲のヒットは彼女にとっても特別だったのかしらね。昨今の紅白を考えれば、彼女クラスのベテランがその年に出した曲を歌えるというのは、大したものよ。(さゆりさんなんて、今年も「天城越え」だものねっ!)
 さて、お約束通り、Stereosound誌監修による再発クリスマスアルバム&ハイブリッド盤レビューの2回目は、オリジナルでは1987年11月21日発売、『Snow Garden』です。
 発売当時の記録は、オリコン最高位1位、29万枚の売上。先行シングル「Pearl-White Eve」収録があったとは言え、イレギュラーの企画盤でこの最終売上は、スゴイわね。この時期の聖子さん、サヤカちゃんの子育て時期という事もあって、メディア露出が少なくてファンは飢餓感を煽られていたわけだけど、その一方で休養たっぷり、心身とも充実していたに違いない聖子たんのフィジカルコンディションは最高で、長いキャリアを通してみても、この時期の声の美しさは格別。透明感があって、表現も非常に繊細なものが多い。そんな時期のアルバムが、声の輪郭がくっきりと出るリマスタで再発された訳で、ホント、幸せよね。プロダクションノートによれば、デジタル化が進行していた80年代後半の制作にも関わらず、このアルバムのマスターのほとんどがアナログ・テープに録音されていたとのこと。そこに録音されていたアナログ特有の艶のある滑らかな音をなるべく手を加えずにDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)変換したものが、このSACD盤。
 実はね、前回『金色のリボン』のときとはこちらの試聴環境も違っていまして、晴れてSACDプレーヤーが我が物になったのです!(メリー・クリスマス・フォー・ミーよ!)ということで、今回はきちんとSACD層を聴いた感想も加えます。
 アルバムのオープニングは、かなり前にセイコソングスでも取り上げた名曲「Prease don't go」(作詞:松本隆、作曲:南佳孝、編曲:井上鑑)。こちらは冒頭にクリスマスの街角の喧騒から、彼が旅立つ駅に迷いながらも向かう女性の靴音、そして駅から蒸気機関車が走り出す車輪の音…イントロに至るまでの効果音だけでもまるで、短編映画を観るかのようなドラマチックな作り。このアルバム、プロデュースは松本隆さんなのだけど、同年に映画『微熱少年』を監督しただけあって、かなり演出にリキが入ってるわ〜、という印象。一方の聖子さんのボーカルは全編ウィスパーを駆使して繊細な世界を作り上げていて、見事にそれに応えている感じ。SACDの音はドラマチックなバックのど真ん中に、情感を細やかに紡いでいく聖子さんの歌声がくっきりと浮かび上がっていて、SE含めて7分半という長い曲にもかかわらず、終始とても贅沢な時間が流れていく気がするのよね。
 2曲目は「妖精たちのTea Party」(詞:松本、曲:鈴木康博、編:西平彰)。ファンタジックなテーマからいって同年5月発売の『Strawberry TimeStrawberry Timeに収録されてもおかしくない曲だったはずが、何らかのオトナの事情でこの盤に収録になったのかもね。とはいえ元オフコースオリジナルメンバーだった鈴木さん、かのバンドは小田さんのワンマンバンドになってしまった鬱憤を晴らすがごとく、ここではポップで印象的なメロディーを聖子たんに贈っています。確かこの曲、「なるほど!ザ・ワールド」のテーマ曲にもなったのよね。イイ曲だからシングルカットしても良かったのにね。音の方は、いかにも80年代後半を感じさせる打ち込み系サウンドをバックに、まるで子供に童話を読み聞かせるようなママドル・セイコの優しい歌声が鮮やかに蘇っています。
 3曲目には先行シングルの形でリリースとなった「Pearl-white Eve」(詞:松本、曲:大江千里、編:井上)PEARL-WHITE EVE(CCCD)のイントロに、教会の聖歌風のコーラスを加えたロング・バージョンを収録。この曲のこの”聖なる世界”は、やはり唯一無二という感じ。この当時の聖子さんの声でなければ創りえない世界、と言っても過言ではないと思う。今までのリマスタではボーカルがエコーでぼやけてしまいがちなところを、SACD盤では慎重にコントロールされた美しい発音・発声がリアルに浮かび上がってきて嬉しい。それと、バックで微かに聴こえる鐘の音がとても綺麗に響いてくるところも素敵。
 “Today’s Avenue Side”と題されたLPでいうA面最後の収録曲は切ないバラード「恋したら・・・」(詞:松本、曲:辻畑鉄也、編:奈良部匠平)。「♪一人の時間は長くてこわい そばにいて」などと、松本さんにしては体温高めな(笑)恋歌を、ママになった聖子さんのアクが抜けたボーカルがより大きな世界観を湛えた曲に昇華させている感じ。『Strawberry Time』でもアルバムのラストに「Love」という名バラードを聖子たんに提供した辻畑さん、こちらもA面最後を飾るに相応しい出来。米米なんかを手掛けていたという奈良部さんのやや大仰なシンセアレンジは、ちょっと好みじゃないのだけどね(汗)。
 さて、“Yesterday’s Street Side”となるB面の残り6曲は、冬をイメージした過去曲の再収録5曲(「一千一秒物語」「瞳はダイアモンド」「ハートのイアリング」「愛されたいの」「Let’s Boyhunt」)に、1982年のクリスマス企画盤『金色のリボン』の収録曲「星のファンタジー」(曲編:大村雅朗)を改題・改詞して歌い直した「雪のファンタジー」を収録。
 過去曲では「一千一秒」のボーカルのくっきり具合にしびれ、「瞳は」では喉を酷使した当時の聖子さんの声の荒れがあまりにリアルでびっくりしたり、どれもやはり新鮮に聴こえてくる。なお「Let’s Boyhunt」のみ、エンディングにスキーのエッジ音がミックスされた特別編集。最後の「雪のファンタジー」は、声の切なさで聴かせた1982年録音「星の〜」と比較すると随分とアクが抜けてあっさりとした印象だけれども、静けさ湛えたこの曲に寄り添うようなピュアで繊細なイメージはこちら(1987年録音)のボーカルが勝っていて、メロディとアレンジは同じでも、全く違った印象の作品に仕上がっているのが凄いところ。ちなみに聖子さん、「のファンタジー」では曲の最後に“Merry Christmas.”と控えめに囁いていたのが、5年後の「のファンタジー」では“I Wish You a Merry, Merry Christmas, with this song!”などと自信たっぷりにイングリッシュを「披露」していて、これぞ聖子たん、という感じ(笑)。