歌姫ここにあり〜80年代ライブ映像『Seikoland』

Seikoland ~武道館ライヴ '83~ [Blu-ray]

Seikoland ~武道館ライヴ '83~ [Blu-ray]

 聖子たんの80年代の貴重なライブ映像3作品がBlu-Rayになって再発。その中でhiroc-fontana特にオススメは83年の武道館ライブを収めた『Seikoland』。この作品以外にはデビュー3年目を迎えて間もない頃のNHKホールでのコンサートを収めた『レモンの季節』に、85年の結婚休養前の武道館コンサート『SEIKO CALL』が同時発売。ファンタスティック・コンサート レモンの季節 [Blu-ray]SEIKO CALL~松田聖子ライヴ '85~ [Blu-ray]
 全盛期のライブが初Blu-Ray化という、ファンにとっては堪らない内容ながら、ソニー・ミュージック・ダイレクトからの発売ということで、オフィシャルサイトからは完全スルー。
 そこに聖子さん本人の意志がどれほど反映されているのかはわからないけれど、すべてを初めて鑑賞したhiroc-fontana(すみません、ファンを名乗りながらもこれまでLDやDVD−BOXまでは手が伸びていなかったワタシです・・)としては、どこかその「完全スルー」の意味がわかるような気がしたのね。
 ワタシが聖子さんだったら、このライブ映像が残されて何度も再生されるの、ちょっとイヤかもしれないな・・・と。(ちょっと衣装も・・・だしね。)
 いいえ、hiroc-fontanaとしては、とても楽しめたし、まさしく当時の聖子さんを取り巻く空気を閉じ込めた「永久完全保存版」的なアイテムだと思う。
 ただ、それがライブだから仕方ないのはわかっていながら、これまでCDで再三愛聴してきた聖子たんの完璧なヴォーカルからすると、ライブでは曲によってかなりクオリティにバラつきがあって「え?聖子たん、こんなに声が不安定だったっけ?」と思えるようなパフォーマンスも少なくなくて、軽いショックを受けたのよね・・・。
 まあね、同じく“時代を代表する歌姫”とは言っても、ライブに命をかけて25年間走り抜けた後期のアムロちゃんのライブの完成度と比べてしまうと、初めから聖子たんに勝ち目はないし、比べること自体、そもそもしちゃいけないのだけどね(苦笑)。だって時代背景(機材や演出やその他もろもろ)が違うわけだし、本人の情熱の傾け方も違うし(当時の聖子たんはテレビに映画にレコーディングに大忙し)、そもそもこのブルーレイはデビュー後数年の頃の聖子たんのライブなわけで、まさにマスターの域に達していたアムロちゃんとは違って当たり前。
 とは言えやはりデビュー4年目、83年の聖子たんはやはり素晴らしくて、ここに記録されているのは、超多忙なコンディションの中、まさに時代を駆け抜けながらトップに上り詰めてその後もアイドルのレジェンドとして君臨する“歌姫”そのもの。そう思えたのよね。
 この武道館ライブから僅か1年半前の『レモンの季節』での、どちらかと言えば野暮ったい印象からすれば、この『Seikoland』では衣装もパフォーマンスも格段にレベルアップしていて、歌うときの表情や手振りが優雅さを増していて、まさに「スター」の輝きがある。(ちなみに舞台演出はあの伊集院静氏で、大きな客船での航海をテーマにしたステージセット、四季の移ろいに沿って緩急つけたセットリストなど、凝った演出が楽しめる。それに比べて近年のワンパなステージ構成ときたら・・・この頃はよかったわ。号泣。)
 何よりも素晴らしいのは「歌」。歌唱の安定度からすれば85年の『SEIKO CALL』に軍配が上がるのかも知れないけれど、当時21歳の聖子たんの、得意のしゃくり上げ満載の哀愁声は格別で、初期のアップテンポの曲群「青い珊瑚礁」や「裸足の季節」では高音域を伸びやかに歌い上げ、「小麦色のマーメイド」や「セイシェルの夕陽」などのニュアンス重視の曲では感情豊かに低音域のハスキーな声を会場全体に響かせている。かと思えば「Rock'n Roll Good-bye〜チェリブラ〜ロックンロール・デイドリーム」という絶妙な選曲の“ロック・メドレー”でけっこう激しいダンスをカッコよく決めた(歌のほうは誰が見てもわかる“口パク”。まだ口パクは訓練中だったのよね(笑))あとに、上がる息をものともせずにバラード曲「星のファンタジー」をとんでもない集中力で見事に歌い上げて見せる。この曲がこのライブのハイライトだと、ワタシは思ったのよね。
 歌姫の伝説のライブと言えば、ひばりさんの「不死鳥コンサート」不死鳥コンサート in 東京ドーム 豪華盤 [DVD]とか、百恵さんの「伝説から神話へ」伝説から神話へ 日本武道館さよならコンサート・ライブ [Blu-ray]とかは、比類ないレベルのものであって、その中で同じように時代を代表するスターとして語られる聖子さんの“伝説のライブ”がこの『Seikoland』だ、と言うつもりはないのだけれど、わずかデビュー4年目ながら、その小さな身体とマイク1本で、確かに武道館の満員の聴衆をその歌声の虜にさせている歌手・松田聖子のスゴさは、このブルーレイで充分なほど伝わってくる気がしたのだ。
 最後にね、ちょっとSonyさんには苦言をひとつ。Blu-Rayにするなら、もっと映像をそれなりにブラッシュアップするとか、音をクリアにするとか、できなかったのかしらね。VHSのビデオ引っ張り出して観ている気がしたわ・・・。