岩崎宏美、そして妹の憂鬱

 岩崎宏美。75年デビューで太田裕美と同期。彼女も筒美京平の作品でスターになったひとりで、いい曲をたくさん持っている。俺は裕美さんを中心に応援してたけれど、岩崎宏美の新曲を聴くのも楽しみだった。二人がしのぎを削っていた76〜77年頃、宏美を裕美の仮想敵のようにして曲が出るたびに勝敗をつけていた。

  • 木綿のハンカチーフ(裕美)vsファンタジー(宏美)。裕美の圧勝。
  • 赤いハイヒール(裕美)vs未来(宏美)。僅差で裕美の勝ち。
  • 最後の一葉(裕美)vsドリーム(宏美)ドロー。
  • しあわせ未満(裕美)vs想い出の樹の下で(宏美)。裕美の勝ち。
  • 恋愛遊戯(裕美)vs熱帯魚(宏美)。宏美の勝ち。
  • 九月の雨(裕美)vs思秋期(宏美)。ドロー。・・・こんな感じ。

もちろん裕美への肩入れと、チャートでの最高位が勝敗の大きな要素であったが。78年以降は悲しくも太田裕美の凋落が激しく勝負はつかなくなってしまった。
 ところで今日のテーマは宏美の妹、岩崎良美だ。MYこれ!クション 岩崎良美昨年、ふと思い立って彼女のベスト盤を購入したのだが、一時期の俺の通勤BGMヘビロテ第1位を獲得していたことがある。今聴くと、良美は良い。本当に良い曲が多い。ただ残念なのは、そのあまりに素直で淡白な歌声。悪く言えば華がない。同時期に華々しく登場したのは松田聖子。一見爽やかで伸びやかに聞こえた声がその実とてもウェットでクセがあったということは、今では誰でも認めるところだろう。姉の宏美も、実は歌い方はとても素直だが、地声の太さが幸いして聴く者にインパクトを与える。そんな中で、良美はどこか決め手を欠くまま、低迷を続けてしまった。
 そんな彼女の曲をデビューから年代順に聴いていくと、とても奇妙な感じがする。それは3曲目「あなた色のマノン」(80年)そして5曲目「四季」(81年)あたりで顕著になる。シブイ。とにかくシブイのだ。岩崎宏美で言うと、「スローな愛がいいわ」という、とてつもなく複雑怪奇な歌をデビュー5年目にリリースしているが、良美はそれに匹敵するような曲をデビュー間もなくリリースしている。その後も良美は「LA WOMAN」(南佳孝作曲)「ごめんねDarling」(尾崎亜美作曲)「どきどき旅行」(加藤和彦作曲)など、隠れた名曲を次々とリリースしているが、残念なことにそれらは未だ「隠れて」いる。「ごめんねDarling」は、バックコーラス(たぶん尾崎亜美本人)との掛け合いがチャーミングな曲で、モーニング娘。がこれを歌ったらと想像すると意外とマッチしそうで楽しい曲。「どきどき旅行」はイタリアンツイストのスピード感溢れるアレンジと、サビまでの畳み掛けるように展開していくメロディーがスリリングな名曲だ。シブイ。シブ過ぎる。俺は、スタッフがこの方向を選んだ、あるいは選ばざるを得なかった、素材としての「岩崎良美」という歌手を思うとき、やはり大きすぎた姉、宏美に思いが及び、可愛そうな妹、良美の憂いをわが事のごとく感じずにおれない。俺は、次男。