太田裕美不遇の時代 その2

太田裕美の軌跡?First Quarter
 77年12月21日「恋人たちの100の偽り」(作詞:松本隆、作・編曲:筒美京平)発売。この歌に詞も曲も異なる別バージョンがあることを知ったのはデビュー25周年CDBOX『太田裕美の軌跡』にその曲が収められたからだ。その「別バージョン」はメジャーキイの爽やかなカントリーポップスで、シングル発売されたバージョンのマイナー系歌謡ポップスとは正反対の曲調に仕上がっている。松本隆のペンによる詞は両バージョンともテーマは共通だが、裕美さん本人によると、この別バージョンが本来シングル用として最初に作られたようで、詞を注意深く比べれば確かに、別Ver.の方が設定や主人公の心理描写がより具体的でストーリー性があり、松本隆らしさが前面に出ていてシングル向きの感じがする。
 前作「九月の雨」はマイナーのポップスで、メロディー的には正統派の歌謡曲。その次のシングルとしては、それまでの裕美さんのパターンからしても、同系統の曲調よりもカントリータッチの別Ver.の方が正解だったはずだ。では、何故この別Ver.はボツになったのか?このあたりに裕美さん「不遇の時代」幕開けのカギとなる問題がありそうなのである。
 ファンの間では有名な事実だが、77年の後半から、裕美さんは喉を痛めて声が出なくなっていた。「九月の雨」はアルバム『こけてぃっしゅ』からのシングルカットだが、実際、調子が悪いなか録音されたと思われるカップリング曲「マニキュアの小壜」を聴くと、高音が掠れていてとても辛そうだ。A面の「九月〜」の声との違いは明らかだ。そして「恋人たち〜」における彼女の喉の状態も、やはり芳しくない。別Ver.がボツになったのは、おそらく裕美さんが5分近い長尺、おまけに3コーラス目でキイが上がるこのバージョンを生で歌える状態になかったからなのだろう。それを念頭に置き、改めてシングル発売されたバージョンを聴くと、裕美さんが殆どファルセットを使わずに歌える音域・メロディーの無難な曲になっていることがわかるのだ。「平凡な曲」の印象を受けるのはこの為だったのかもしれない。
 さて、そうして「恋人たちの100の偽り」は、テレビでもほとんど露出がないまま地味な成績に終わり、彼女はその後も「失恋魔術師」「ドール」と続くものの、結局大ヒットに恵まれないまま今日に至るのである。では、77年から78年に年が変わると同時に、本当に太田裕美人気は急激に冷え込んでしまったのだろうか?そうであるとするならそれは何故だったのか?(つづく)