南野陽子「話しかけたかった」

 ナンノというと何故かおきゃんな江戸の町娘のイメージ。「おすすめ本」からの流れを汲んだつもり、なんだけど(笑)。瓜実顔に輝くアーモンド型の眼。確かに黒襟の着物に日本髪、たすきに前掛けなんかが似合いそうだけど、これは彼女が扮した「はいからさん」の、その女学生のイメージが町娘に結びついちゃっただけ、かもね。わけわかんない表現で、ごめんなさい。
 ナンノといえば2代目スケバン刑事だけど、歴代の中でもセーラー服がイチバン決まってたと思う。アクションの合間に見えるお腹が健康的に色っぽくてね。「おまんら」みたいな高知弁(だっけ?)のセリフも最初は違和感バリバリだったものが、何となく最後は耳に馴染んでカッコよく聞こえちゃったり(「おまんら、なめたらいかんぜよ!」これはナツメ雅子さんでしたわね)。いずれにしても、「スケバン」に限って言えば由貴でもなく唯でもなくナンノが最高だった。
 「話しかけたかった」はナンノ7枚目のシングルで、87年の春発売。とっても春らしい、爽やかなポップス。戸沢暢美の詞は、清潔なセーラー服(ロングスカートじゃなくね)のナンノそのもののイメージ。先輩への淡いあこがれから、話しかけたくともそのチャンスがなかなか見つからないまま、ある日、ポニーテールの彼女と歩く彼を見つけて失恋・・・という、他愛の無いといったら他愛ない世界なんだけど、彼女独特の平板なボーカルが、逆に妙なリアリティを与えている。歌というより、思春期の少女のおしゃべり、ささやきのような感じ。この曲もそうだけど彼女の曲って、二部音符とか全音符で伸ばす音があまり出て来ない気がする。つまり歌い上げるような歌ではないわけで、それは元々の歌唱力の問題が勿論あるのだけれど、彼女、音程は意外なほどしっかりしてるから、上手くはまればちょっとシャンソンのような表現力が出てくるように感じるのだ。この曲も、そう。やっぱり、女優ってことなんだな、きっと。もちろん、この曲の主人公はセーラー服の少女だから、シャンソン歌手のような「濃〜い」感情表現は必要ないわけで、アイドル女優ナンノとしては、このくらいの「淡〜い」心の揺れなんかが、ぴったりはまったのだろうね。
 「駆け寄って話しかけたかった でも出来なかった」このフレーズが、1・2コーラス目は憧憬なんだけど3コーラス目では失恋後の回想になる。ここがこの曲の大きなシカケで、技巧派歌手ならその辺を「歌い分け」するのだろうけど、彼女は全くといって気負いもなく全コーラスをさらりと歌っている。その潔さが、諦めの早さ、つまりは若さの特権のように思えて、またリアリティを与えているように感じちゃうんだから、歌って本当に面白いのね。
 それにしても、この憧れの彼、きっと体育会系で、かっちりした、素敵なヒトなんでしょうね。そんな想像して楽しめる俺って、やっぱり乙女ね。