エレガント・ポップスの見本〜「秋のIndication」南野陽子

南野陽子 2000 BEST
 今回はナンノです。彼女、お世辞にも歌が上手いとはいえないのだけど、か細くて鼻にかかったあの声に何とも言いがたい魅力があるのよね。「ハナ声歌手」としてはモリタカや中山ミポリンも同系統だと思うのだけど、彼女らの声がどちらかと言うと「押し」が強くて、同じ鼻声でも時としてハナ息フーン!みたいに聞こえたりするのに対して、ナンノちゃんの鼻声は、ホワン、と鼻からきれいに抜けていく感じなのね。だから歌声が羽根のように軽いし、時には鈴のような響きにも聴こえたりして、そこが魅力なのだと思う。わかるかしら、この表現。。。
 それと、何といってもナンノのシングルは名曲ぞろい。決してハデなラインナップではなかったのだけど、清楚なお嬢様な(だけどちょっとカタブツでキツイのがタマにキズ)イメージのナンノちゃんのキャラクターを最大限に活かした、エレガントな曲が並んでます。来生たかおさんの特徴でもある欧風の上品なマイナーメロディーが光る「さよならのめまい」や同じく初のNo1ヒット「楽園のDoor」をはじめ、ドリーミイなお嬢様ポップスの傑作「話しかけたかった」はもちろん、どことなく宮崎アニメの無国籍なロマンを感じさせる「風のマドリガル」(湯川れい子(詞)&井上大輔(曲)の豪華コンビ)も好きだし、化粧品CMソングとして彼女最大のヒットとなった「吐息でネット」は控えめに刻むサンバのリズムがオシャレだし、「はいからさんが通る」は映画主題歌を抜きにしても完成度の高いポップスに仕上がっているしで、今ベスト盤を聴き直すと、全盛期の南野陽子のシングル曲はホントに粒ぞろいで今更ながらに驚かされる。
 さて、そんな粒ぞろいの名曲の中でもhiroc-fontanaが特にオススメなのが「秋のIndication」(1987年9月23日発売、最高位1位、売上げ19万枚)。作詞はアキナでおなじみの許瑛子(「SAND BEIGE」の作者)、そして作・編曲が萩田光雄センセ。そう、モモエ、そして太田裕美さんの代表曲のほとんどをアレンジした方。太田裕美という、歌謡曲とフォークとが融合した新しい形のアーティストをサウンド面でサポートした立役者。はたまた「プレイバック」「イミテイション・ゴールド」をはじめとしたモモエさんのどぎつい曲をクールにまとめあげ、エバーグリーンなヒット曲に仕立て上げた縁の下の力持ち。それが、萩田さん、なのだ。
 そもそも上に挙げたナンノのヒット曲はすべて萩田さんのアレンジだし、彼女・南野陽子のアルバムのほとんどは萩田さんの手によるものだ。そう、ナンノの曲にあるエレガントさに大きく貢献しているのは、何を隠そう「萩田光雄」氏に他ならないのよね。裕美さんファンの俺が、ナンノの曲をキライなわけないわよね。。。
 さて「秋のIndication」にハナシを戻すと、ストリングスによるゴージャスなイントロから、淡々とした「タン・タタ、タン・タタ」というリズムがさりげなく始まって、終始そのリズムに乗って、ボーカル・バッキング・間奏・コーラスなどが渾然一体となって流れていく、この曲構成が、ハマルとたまらないのよね。そもそも声量がなくてキレギレなナンノちゃんのボーカルだけど、その合間を埋めるオーケストレーションのなんと豊潤なこと、これはそれこそ、ナンノという素材を知り尽くした萩田さんがアレンジどころか作曲まで手がけたからこそできる完成度、だと思うのです。そのうえ、前半は同じようなリズムとメロディーの繰り返しながらその合間のオーケストレーションで聞かせ、曲も終わりに近づいたころにやっとサビのメロディー(チョコレートのCMでも流れた)「♪ルルル ほろ苦い ルルル 青春は♪」が用意されるという周到さで、この最後まで飽きさせない緻密に計算されつくした構成に、ただただ脱帽!なのよね。この曲のテーマは「秋」だけど、まさに芸術の秋に相応しい逸品(とまで言ったらオーバーかしら? 笑)。
 ちなみにこの曲、2ヵ月後に発売されたアルバム『ガーランド』では別歌詞の「カナリア」という曲に化けた(笑)ほか、ベストアルバムの『NANNO Singles』ではサビの「♪ルルル ほろ苦い ルルル 青春は♪」の歌詞が「♪きっと ほろ苦い きっと 青春は」に差し替えられている。ちょっといわくつきの曲かもね(?)。↓これは、その差し替え後のバージョン。