薬師丸ひろ子「胸の振子」

 「柳につばめは あなたにわたし 胸の振子が鳴る鳴る 朝から今日も〜」というのは昭和の時代を代表する不朽の名曲だ(唄:霧島昇、詞:サトウハチロー/曲:服部良一)。これはポップスだの演歌だの、クラシックだのジャズだのという、明らかに「音楽という神様からの贈り物」を冒涜するようなくだらないジャンル分け議論を無意味なものにするような、永遠の名曲、美しいメロディー。いい曲というものは、ジャンルはおろか国境、時間でさえも悠々と超越して、音楽を愛する者の心を捉える。そんな大袈裟なことさえ想起させる、俺の大好きな曲のひとつだ。残念ながら音楽が「カネ」に変わってしまった現代、音楽にそんな力を望めるはずもない。
 さて、ひろ子版「胸の振子」は87.10.10発売。87年に発売された唯一のシングルで、詞:伊達歩、曲:玉置浩二、編:萩田光雄というラインナップの、服部作品とは同名異曲。女優が本業ながらイイ曲を結構持ってる彼女の、俺のイチ押しはこの曲。あんまり売れなかったけど。
 薬師丸ひろ子といえば、「ちゃん、りん、しゃん」とか、「カイ、カン」に代表される、すこし強張った口元から発せられるピーヒョロロとした(?)か細い声のイメージと、歌で聞かせるノッペリとしたメゾ?ソプラノの声の落差に最初は驚かされたんだけど、まあ、歌唱力的にはまあまあの線を行っていたように思うのね。ただ、あまりに歌声がノッペリしてるんで、正直いって、俺的には彼女のスローな曲はどうしても冗長な感じがしてくどいというか、聴き始めてあっという間に「お腹いっぱい」感が来てしまって、ダメだった。「探偵物語」とかね。
 この曲も基本的にはノッペリソプラノ歌唱全開なんだけど、名曲の「お題拝借」だけあって、玉置さんがワルツのなかなか美しいメロディーを書いていて、頑張ってる。結婚したのはこの曲がきっかけだったっけ?覚えてないけど。萩田光雄によるドラマチックなストリングスのイントロ・アウトロもこの曲に格調高いイメージを与えていてGOOD。ただし、サビの安っぽいシンセ・アレンジはいかにも前時代風でマイナスポイントだけど。

神が咎めたって あなたを守るわ
夢に傷付いたら 抱いて眠るわ
千の剣だって 私は受けるから
ずっと傍で私 夢を紡ぐわ

 歌詞はちょっと「聖母たちのララバイ」に似ているけれど、少し眠そうなひろ子さんの声は、確かに聴きようによっては慈母のような優しさを醸し出していて、上品で格調高い独特な世界を作り出している。服部さん、サトウさんも、この曲なら「お題拝借」、許してくれますかね?