「かっこつかないね」田原俊彦

 ウチに、とある録画ビデオが残っている。94年放送のNHKふたりのビッグショー」だ。ゲストは松田聖子田原俊彦。当時で言えば夢の共演。俺のお目当ては聖子だったのだけど、このビデオではトシちゃんが断然、素晴らしいので、たま〜にトシちゃん目当てで見たりする。もちろん当時30代の聖子の歌は油が乗り切った感じで凄い力があるし、ふたりの軽妙なトークはいつ見ても楽しくて、番組自体が一級品のショーとして出来上がってる。
 その中でトシちゃん、肝心のウタの方は相変わらずなんだけど、とにかくダンスがすごいのね。最後に筒美京平作の「THANX」という曲を、広いステージをいっぱいに使って歌い踊る姿には、本当のショウビズ魂を感じさせられる。(ウタはともかく、ね。)手・足・首の動き全てが洗練されていて、無駄なくかっこいいの。「振り付け」という作り物・押し着せ感がない、オリジナリティに溢れる動きの連続で、彼の中に「動き」の引き出しがいっぱいあるのだな、と思う。本当に惜しい人を亡くしたものだ(いやいや、まだまだ現役で活躍中です)。jvc-entertainment.jp
 そんなトシちゃん、たのきんではちょっと軽薄な王子様、みたいな位置付けだったと思うのだけど、これはヒロミ・ゴーの血脈とも言えるよね。ダンサーとしての才能もヒロミ譲りなわけだけど、俺はその優雅さ・センスにおいてトシちゃんの方が上だと思う。(ウタはともかく、ね。)ジャニ系アイドルではその後の東山くんとかドーモトコウイチくんとかがこの血を受け継ぐ「ダンサー王子系」に分類されると思うけど、そんな代々のジャニ・アイドルの中でも充実期におけるトシちゃんのダンスはピカ一だったような気さえする。(ウタはともかく、ね。しつこい?)
 その、トシちゃんの「ウタ」について。俺、最近思い立ってベスト盤を購入して聴いてみたんだけど、あれ?と思うくらいいい曲が多くてびっくり。サウンド的にはヒロミ・ゴー78年のヒット曲「ハリウッド・スキャンダル」を発展させたような、ブラスやビッグ・バンドを使ったショウビズ的(ゴージャス)サウンドが一貫したトシちゃんサウンドの特徴だ。ちょっと軽薄な「ハッとして!Good」や「キミに決定!」、ノベルティ物「NINJIN娘」でさえ、分厚い生音系のバッキングがゴージャスでカッコよかったりする。彼の「ショウビズ魂」が培われたバックボーンのひとつは、この「サウンド」なのかもね。このベスト盤、低迷気味だった80年代中盤の曲がすっぽり抜けているのがちょっと不満なのだけど(まあ、38曲もトップテンヒットがあるから仕方ない)、彼のボーカルがやっと(笑)安定してきた80年代後半の筒美京平による名曲群はほとんど網羅されていて嬉しい選曲。メジャーセブンス系サビメロディの開放感がツボな「さようならからはじめよう」、シックなブラコン歌謡「どうする?」、言わずと知れた大ヒット・躍動感溢れる「抱きしめてTONIGHT」あたりの曲の流れなんかが最高。トシちゃん、ウタもカッコいいぜ。そして俺のイチ押しT-13「かっこつかないね(88年)」。ブラスとトシちゃんのスリリングな掛け合い、これこそゴージャスサウンド路線の集大成だ。この曲のダンス付きナマ歌、きっとかっこ良かっただろうね。見てみたい。当時、全然注目してなかった自分が悔しい感じだ。
 さて、録音で聴くトシちゃんの歌は、見事に1曲全部の音が外れていたりしてびっくりするくらいなんだけど、なんて言うか、ハズしながらも肝心な音程をチラッと舐めるようなところがあって、そんなビミョーなバランスの上で結局は「ウタ」としてちゃんと成り立っているのね。だから聴いていて気持ち悪くない。なんだか不思議な味わい。特に後期のトシちゃんはオススメ。皆様もぜひともご賞味あれ。
 最近は話題的にもルックス的(「アタマ」ね!)にも寂しい限りのトシちゃんのようだけど、かのTVショーで見せてくれたエンターテイナーとしての天賦の才能を、もっと発揮する場を与えてあげて欲しいな、TV局さん。もったいないもん。

Myこれ!クション 田原俊彦ベスト

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