早見優「渚のライオン」

 「渚のライオン」は83年7月発売。同年4月の「夏色のナンシー」、9月の「ラッキイ・リップス」と並べると優ちゃんに提供された筒美(京平)ポップスの傑作三部作といえるね。83年は、80年デビューの聖子・奈保子・芳恵に加えて82年デビューの女性アイドルが次々とブレイクを果たしたアイドルの当り年で、中でも筒美ポップスでブレイクした優ちゃんとキョンキョン(「真っ赤な女の子」「半分少女」も名曲!)は当時、俺には特に光って見えていた。
 残念ながら優ちゃんの場合、筒美ポップスとはこの83年の3曲と翌84年の「誘惑光線クラッ!」「哀愁情句」で縁が切れてしまうわけだけど、筒美ポップス特有の洋楽テイストとハワイ育ちの優ちゃんの持ち味とが相性バッチリだったから、もう少し筒美系アイドルとして頑張って欲しかったなあ、なんて思う。まあ、その後は彼女なりにロックっぽい方向で居場所を見つけて成功したから、それはそれで良かったんだけどね。(「PASSION」は名曲だったしね。)
 さて「渚のライオン」。ポップなAメロから「昨夜(ゆうべ)のうちに来なさい」の高音メロディーでちょこっとだけ盛り上がって、その後「イッツ・ア・ミラコー、イッツ・ア・マジコー」の繰り返しで「バン・バ・バーン!」とわけのわからないエンディング。ただでは終わらない、この辺りが80年代の筒美京平ポップスの面白さだ。ラテン・パーカッションが効いたアレンジは当時人気だったカルチャー・クラブの曲(「I'll Tumble 4 Ya」など)を彷彿とさせて、今あらためて聴くと、そういえばこの曲のサビ「イッツ・ア・ミラコー(It's a miracle)」ってそのまんまカルチャー・クラブのヒット曲と同じじゃん、てことに気づいた。俺、カルチャー・クラブのカラフルでフックたっぷりのポップスが当時とっても好きだったんだけど、83年の優ちゃんが歌っていた筒美ポップス3部作には、同時代ということもあってか、なぜかカルチャー・クラブと同じ香りがするのね。カラフルで、ポップで・・・。83年にカルチャー・クラブは「カラー・バイ・ナンバース」という名アルバムをリリースしているのだけれど、彼女も同じ年に「カラフル・ボックス」というアルバムを出していて、もしかしたらやっぱりその辺を意識していたのかもね。
 実は「渚のライオン」と「夏色の〜」「ラッキイ〜」は3曲とも英語バージョンが存在しているのだ(それらは全てCD「YU HYAMI GOLDEN☆BEST」-写真-に収録)。これら英語バージョンとオリジナルの日本語バージョンを聞き比べてみると、英語バージョンのボーカルの方がずっとイキイキしているのに驚かされる。おそらくこの当時、彼女にとって、歌は英語で歌うものであって、日本語で歌うことはまだ苦手だったんじゃないかな?と思うのだ。この「渚のライオン」も、日本語バージョンの方はどこか一本調子でハジケきれていない感じがする。どことなく歌わされている、といった感じ。筒美ポップスの名曲にめぐり合ったにもかかわらず、「真っ赤な女の子になりきった」キョンキョンほどに、優ちゃんが大衆にインパクトを与えられなかったのは、そんなハンデが影響したのかもな?と思う。
 ところで「渚のライオン」のカップリング曲、「赤いサンダル」もメロディーとコーラスの掛け合いが絶妙な、洒落た筒「美」メロ炸裂の超名曲で、こちらは優ちゃんが難しいメロディーラインを上手に歌いこなしていて、彼女のシンガーとしての実力を垣間見せてくれてマス。この路線の早見優も、もっと聴きたかった気がする。