早すぎた80年型アイドル〜金井夕子

ベスト
 みずみずしい尾崎亜美のメロディーが印象的な「パステル・ラブ」で1978年にデビューした金井夕子。決して派手な印象では無かったけれど、なぜか一目置かずにはおれない存在だったような気がする。落ち着いたルックスと安定した歌唱力に加え、「パステル・ラブ」「ジャスト・フィーリング」とデビューから畳み掛けた、ポップセンスあふれる名曲の連続リリースがそれを決定付けたように思う。
 彼女がデビューした78年は、いわゆるニュー・ミュージックが隆盛を誇る一方、百恵・PL・ジュリーの三つ巴の争いを尻目に、その他のアイドルスターの多くがフェードアウトを余儀なくされ「アイドル冬の時代」の幕開けとなった、いわば歌謡界の転換点となった年だ。そんな中、当時ニュー.ミュージックのアーティストとしてメキメキ頭角を現していた尾崎亜美の作品で金井夕子がデビューを飾ったのは方向としては必然だったように思う。
 ベスト盤で30年ぶりに彼女の歌声を聴いてみた。
 改めて聴くと、少し鼻にかかったアルトの声は適度な湿度と質感があって、「泣き」が入るところなんかはデビュー時の聖子を、艶やかに伸びる高音部分は中期以降の百恵を彷彿とさせて、声だけで言えば大器の素質十分といった感じだったのね彼女・・・。すごく巧(うま)い。でも結局、最後まで大輪の花を咲かすことができなかったのは、やっぱりあまりにも見た目の印象が地味すぎたからなのかしらね。その辺りも含めて、なんとなく薬師○ひろ子・原田知○とともに「角川三姉妹」に数えられながらも一人だけ泣かず飛ばずだった「渡辺典子」とカブるのよね、俺としては。
 尾崎亜美からの作品提供はサードシングル「午前0時のヒロイン」で終わり、その後は3作連続で松本隆筒美京平の黄金コンビからの曲提供を受けることになる金井夕子りん。(★訂正:スリランカ慕情の作詞は阿木耀子です。)黄金コンビのシングル作品では、筒美先生お得意の岩崎宏美風マイナーAOR「ラストワルツ・イン・ブルー」、百恵「夢先案内人」風の月夜を漂うようなメロディーが絶妙な「オリエンタル・ムーン」(この曲が俺的にはベスト!)、庄野真代風のメリハリの効いたエキゾチック歌謡「スリランカ慕情」と、ここでの3部作もこれまた名曲揃いではあったのだけど、「午前0時〜」から歌謡ポップス路線へ方向転換してセールス的に失敗したのが響いたのか、どれも結局ヒットには結びつかずに残念な結果に。やっぱり彼女の声で歌謡曲を歌っちゃうと、どう頑張っても百恵さんの焼き直しにしか聴こえないものね。NM系のアーティスト作品を揃えたコンセプト重視のアルバム作りや、その後のシングルでも細野晴臣山口美央子などから実験的な作品の提供を受けるなど、振り返れば80年代型アイドルのひな型とも言える活動をしていた夕子りんなのだが、結局のところポスト百恵は、この金井夕子のモデルケースから百恵臭を徹底的に排除した形で次世代型モデルを完成させた聖子がそこに収まることになるのだ。
 金井夕子はいわば、春だと思って咲いたのにちょっと早咲き過ぎて、寒の戻りで満開にならぬまま散った人、と言えるのかもね。でも、記録には残らずともしっかり記憶に残った歌手の一人として、彼女を評価したいと思う。