中原理恵「抱きしめたい」

 今回は、中原理恵さん。最近、彼女のベスト盤をヘビロテしてるの。

(ちなみに俺が聴いているのは『GOLDEN★BEST Limited〜筒美京平を歌う〜』という"筒美しばり"盤。)彼女が活躍していた時期にはあまりピンときていなかったhiroc-fontanaだけど、聴き直して改めて、今更ながらそのシンガーとしての魅力にハマっているのだ。
 1978年2月にアルバム『Touch Me』でデビュー。ベスト盤のライナーノーツ(解説は「ナツメロ茶店」の中原あゆむさんがされている)によれば、かのCBSソニー白川隆三さん(そう、太田裕美さんのディレクター!)が、彼女の地元での評判を聞きつけて札幌で直接スカウトしての“アルバム・デビュー”だったというところが、プロの目から見てもいかに「逸材」だったかがわかるエピソード。そのデビューアルバム、路線はもろ当時の第一線の音楽=ニュー・ミュージックであって、筒美センセ以外にもタツローさんや吉田美奈子さんや鈴木茂さんら錚々たるメンバーが参加していたというから、レコード会社の彼女への期待の大きさもわかるわね。
 でも実際に当時を知る我々にとっての理恵さんの印象は、78年3月に発売されて大ヒットしたデビュー・シングル「東京ららばい」(デビューアルバムには未収録)での彼女であって、今でいうクール・ビューティーのルックスは確かにアイドルとは違うけれど、ニュー・ミュージック路線というよりはどちらかというと“歌謡曲ど真ん中”の歌手という印象だったような気がする。

 そんな彼女、78年は新人賞を総なめする活躍だったものの、その後は歌手としてはあまりパッとしなかった。そこに、今や伝説となっている「欽ドン」(良い妻、悪い妻、普通の妻)でのコメディエンヌとしての大ブレイク(1981年)があったのよね。当時俺も理恵さん目当てで毎週、観てたもの。本当にカンがよくて頭の良い人なんだな〜って思ってた。それを機に、女優としても大活躍するようになるのね。
 土曜日の夜にBSで毎週放送されている「土曜は寅さん!」。俺はこれが大好きで。。先日もボ〜っと観ていたら、なんとマドンナが中原理恵さんだったのね。男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎 [レンタル落ち]1984年公開、シリーズ33作目の「夜霧にむせぶ寅次郎」は、寅さんシリーズの中ではちょっと異色作で、理恵さんはマドンナというより寅さんと同業・“フーテン”の女役。寅さんも含めて恋愛感情が絡まない設定で、あまり展開がドラマチックじゃなくて。なのでシリーズの中では、マニア以外には不人気な作品なのだそう。でも作品の中の理恵さん、一人で生きる女性の強さや奔放さや寂しさを自然に醸し出せていて、改めて器用な人なんだなと思えたし、独特の存在感がある人なのだと思った。だから、歴代の大女優に混じって、マドンナに抜擢されたわけよね。
 そろそろ肝心なウタの話に行かないとね(苦笑)。理恵さんの大人っぽいアルトの低音ボーカルは百恵−明菜の系譜にあって、彼女の場合は声を張り上げることなく、ふわっとファルセットに移るあたりがゾクゾクするほどイイのね。ちりめんビブラートもとてもイイ具合。歌の主人公になりきる表現力も申し分なくて、歌手としても一流だったのだな〜、と思えた。(「欽ドン」を一年で辞めたのも、当時YMOのアノ人との不倫騒動が発端との噂も流れていたけれど、実際は本人が本業の歌を頑張りたいと欽ちゃんに直訴したから、という話もある。)
 何より理恵さんは楽曲にも恵まれていて、ヒットこそ少ないものの、CBS白川さんつながりからか松本・筒美コンビの作品の名曲多し!「東京ららばい」「ディスコ・レディー」の連続ヒット作品以外にも、クールなデジタル・AORの4th「枕詞(ピロー・トーク)」(←これ、当時から大好き!)、ELOファンにはたまらないジェフリン仕様のキラキラサウンド・5th「SHOW BOAT」、理恵さん自身のことを歌ったような哀愁バラード・6th「寒い国からきた女」など、黄金コンビによるシングルはバラエティに富んだ充実作が並んでいるのよね。
 その中で今回、改めて好きになったのが、筒美・松本コンビが手掛けた最後のシングル、1980年7月発売の8th「抱きしめたい」。この曲、もとは1978年末のセカンドアルバムの収録曲だった作品をリカットしたもの(アルバムバージョンでは「頭の軽い私だけど」がシングルでは「心の軽い」に変更されている)。タイトル通り、ビートルズの名曲へのオマージュで、サビでの"I wanna hold your hand"というフレーズや、イントロや間奏でも元歌のメロディーやリズムを引用している凝った作りなのだけど、全体のサウンドとしてはフォーク寄りの軽めのロックンロールなのに、何だか聴いていて不思議とノスタルジックでメランコリックな気持ちになるのよね。何も語らぬまま、いつの間に芸能界からフェード・アウトしてしまった理恵さんご本人の消息を思うに、余計に切なく感じたりするのかもね。(「♪ あなたの淋しさを 抱きしめたい」なんて歌詞も、ね。)
 「抱きしめたい」 イイ歌ですよ。リンクしますので、聴いてみてね。

  • リンク先→