地声の天使〜岡田有希子

贈りものII
 現役時代のこの人には全く興味がなかったけれど、ふとしたことで久々に彼女の声を耳にして、ああイイナと思ったので、書きます。今回は、岡田有希子
 何がいいって、とっても歌声が自然なのね、有希子さん。す〜っと耳に届いてくる感じの歌声。歌手っていうのは、普段しゃべる声(地声)とウタ用の声を使い分けている場合がほとんどだと思うのだけど(天地真理のファルセットとか、薬師丸たんのマッタリ・メゾソプラノがその典型ね)、彼女の場合、ほんとに喋ってるみたいに軽やかに唄っている印象を受けるのだ。喋るように歌うと言っても、たとえばモー娘がまるでウタにもなってないフレーズを「喋る」のとは違って、彼女の場合、歌唱力も表現力もあるし、地声で喋っているようでいてしっかり「歌」になっている。そこが、なんだか凄いな、と思ったのと同時に、どこか懐かしい気がしたのだ。地声で唄うシンガーでは他にも岩崎さんとか、奈保子さんとか、声がよく伸びて歌の巧い人はいっぱいいるけど、そんな彼女たちは声を張り上げるタイプがほとんどなので、有希子さんのように地声で軽やかに歌い上げるタイプって、いるようでいて実は少ないように思うのね。強いて挙げれば、このタイプには浅丘めぐみさんとか、石野真子さんとか、80年代後半のキョンキョンとか、「可愛いいし歌も及第点」みたいな優等生アイドルが多いような気がする。ボーカル・テクニックを前面に出すよりニュアンス表現が優先するタイプね。
 これが21世紀の現役シンガーになると、ディーバとか歌姫とか呼ばれる「巧いでしょ、アタシ」系の自己陶酔型の歌手か、ヘタでもなんでも「個性」として開き直っちゃうシロート歌手か、もはや完全にふたつに分かれちゃっている気がするのね。その中間の、さりげない技巧派歌手、っていうのが極端に少なくなったような気がしてならない。だから、なんだか「懐かしい」という感じがしたのかもね。
 彼女がデビューした1984年といえば、80年組・82年組アイドルのブレイクも一段落して、モモコちゃんやミポリンやナンノといった「女優型アイドル」と、おニャン子たちシロートアイドルが大量に出始めた頃で、そんな中で有希子さんといえば、何だかとても大人しい印象があったように思う。新人賞も総ナメにして、70年代で言えばまさしく「シンデレラ登場」ということになったのだろうけど、悲しいことに時代は変わっていたわけね。女優として自分を演じることもなく、かといってアカラサマに「自を出す」こともしないオーソドックスなアイドル・ユッコは、スポットライトを浴びるたびにそこでひとり苦悩していたのかもしれない。(その苦悩の最大の表れがイヤイヤ出演した(?)大映ドラマの迷作「禁じられたマリコ」の迷演技(!)だったような気もする。)
 とにかく瑞々しく初恋のときめきを唄う名曲「恋、はじめまして」ではどこまでも可憐なボーカル。どことなくポスト聖子として「難しい歌を歌わされている感」が漂い始める「二人だけのセレモニー」の所在なさげなボーカル。後期の彼女のメイン作家、かしぶち哲郎による代表作「Love Fair」での、まさしく妖精になりきったような、浮遊感に溢れた渾身のボーカル。そして、事務所の思惑が交錯した哀しきラストシングル「くちびるNetwork(セイコ作詞)」での、まるで開き直ったかのような、痛々しくはじけたボーカル。
 岡田有希子の素直な地声ボーカルからは、素直だけど一途な彼女の心の声が聴こえてくるような気がする、といったらオーバーかな。でもね、今となっては確かに貴重な声だし、貴重なボーカルでもあるような気もするので、興味があったら是非このさりげなくて心地よい地声ボーカル、味わってみてくださいね。
 PS.松原みきさんから、図らずも「追悼企画」が続いてしまいましたが大意はありませんので。。。