岩崎良美「どきどき旅行」

 今回は岩崎良美さん。彼女に関するエピソードで印象に残っているのは、姉・宏美のモノマネをするコロッケに「姉はそんなに変な顔じゃない!」とか何とか言ってマジに怒ったというハナシ。(これは確か当の宏美姉さん本人がバラした話だったような気もする。)
 良美さんというとどうしても、このエピソードが象徴するように、大好きな姉さんにいつもくっついてばかりいる、少し引っ込み思案で真面目な(よく言えば世間ズレしていない、悪く言えば融通の利かない)妹、という印象がある。
 彼女のデビューは1980年。空前のアイドルブーム真っ只中でありながら、グラビアや水着などの仕事はほとんどせずに(まあルックスも地味だったけどね・涙)、歌一本で勝負、それもヒット狙いの路線とは一味も二味も違うクオリティ重視のシブーイ曲ばかりをリリースし続けたあたりも、やっぱりこのコは根が真面目なイイ子なのだろーな、という気がするのよね。ちょっと頑固そうだけどね(笑)。聖子がデビュー当時「イチバンの親友がヨシリン」みたいに言っていたのはある意味象徴的な気がするのね。おそらく、トップを走っていたセイコにとって、トゲトゲしいライバル心を剥き出しにして来ない唯一の同期生が、岩崎の良美ちゃんだったに違いない。ま、ルックス的にもセイコからすれば勝負にならないくらい地味だったけどね、ヨシりん・・・(再び涙)。
 歌声にもそれが表れていて、とても軽やかで爽やかな声なのだけど、彼女のいかにも真面目そうな声には何かもうひとつスパイスが足らないような気がするのよね。さらっと聞き流せちゃう。洋楽的な感覚で楽しむならそれはそれで良くて、だからこそタダのアイドルは違った彼女独特の音楽性が生きた、と言えなくもないのだろうけど。やっぱり、クセの強い聖子の歌声や、明菜が醸し出すダークな湿度感や、奈保子のボインな健康美のインパクトには、どうしても負けちゃってた気がする。
 しかし以前、ちあきなおみに関するエントリーで紹介した「ちあき良美」、これを聴いて俺、思わず「あ、そうか」と膝を叩いたの。もしかしたら彼女、岩崎良美って、歌が上手すぎるのかも、って。良美は、「うああああ」と声を張り上げることもしないし、「ひみつの〜は・な・ぞ・のん〜」なんてわざと音程を甘くして媚を売ったりしない。まるでちあきなおみを早回しにしたみたいに、低音から高音まで、何事もなかったようになめらかにシラっと正確に歌いきっちゃう。だからよほど注意して聴かないと、す〜と自然に耳を通り抜けていってしまう、という解釈ね。
 そんな彼女の曲たちを改めて聴きなおしてみると、なるほど「赤と黒」「涼風」「あなた色のマノン」「四季」とデビュー当初から複雑な構成の難曲ばかり。これは並のアイドルが歌う曲じゃあありませんよ。デビュー曲からして作詞:なかにし礼、作曲:芳野藤丸ですもんね。そんな路線が続いた結果、曲を追うごとにセールスは次第に下降線を辿ることに。
 さて「どきどき旅行」はデビュー3年目の82年4月発売。20才を機に安井かずみ加藤和彦のおしどりコンビと初めて組んだ「愛してモナムール」のスマッシュヒット(最高位25位、8.5万枚)を受けてのヨーロピアン路線第二弾。イタリアン・ツイストのリズムが醸し出す独特の疾走感に、ブラスロック顔負けのスリリングなブラス・アレンジがさらに追い討ちをかける、まさにク〜〜〜〜ル!!な1曲だ。俺の中では彼女の最高傑作。最高位は34位と前作に及ばなかったが、曲の良さでロングヒットとなった。詞の方は「ハワイに行かせて、行かせて」としつこくせがむ女のたわいない世界(笑)ウッセー、て感じ。でもメロディーのインパクトが尋常じゃないのねこの曲。中間のブリッジ部分「裸足で砂浜駆け出す私を」での音符がオクターブで畳み掛けていくメロディーに続いて、サビ「太陽が まぶしすぎるから」で一気にハジケるところなんて、シビレちゃう。そして曲の終わり「わたしの恋は・・・」の部分、なんとも微妙な半音でゴリ押しするフレーズ。こんなメロディー、加藤さんにしか作れませんわ、きっと。それを軽々と歌っちゃう良美さんに、改めて脱帽です。
 それにしても、いまだにカラオケで人気上位にあるという「タッチ」。あの曲が結局は良美たんの代表曲ってのも、何だかな〜という感じよね。でもね、今回ピックアップした「どきどき旅行」、この曲を改めて聴いてみると、実はこれが「タッチ」とよく似ているのだよね。同じドンチャカ・ロック系で、ほとんどプロト・タイプと言っても良いかもしれない。
 そう、苦節5年、タイアップの「タッチ」でやっと売れた、という印象が強い岩崎良りんなのだけど、その裏にはしっかりと良い音楽を追求してきた彼女の真摯な努力の足跡が確かに見て取れるのだ。ごちゃごちゃ書いてしまったけれど、今回はそれが言いたかったのよね。
 PS.ところで、「ナツメロ茶店」さんでも名盤として紹介されている、良美さんのサード・アルバム「Weather Report」の再発が決まったそうで、これも楽しみですね。もちろん「どきどき旅行」も収録されてます(ボーナストラックだそう)。