筒美系シンガー真打ち登場〜郷ひろみ

 俺の大好きな筒美京平作品を歌うシンガーのなかでも、作品の数、クオリティにおいて最重要シンガーの位置づけにありながら、俺としては最近までずっと苦手な部類に属していたのがこの人、ヒロミ・ゴーなのね。
 「プラスチック」とも言われたその青臭い声がどうしても好きになれなかったのは確かだけれど、デビュー当時のひろみの中性的な印象が、小さい頃から「女の子みたい」と揶揄され続けていた俺にとっては「見ていて辛い存在」だったことが大きいのかもしれない。いくら女の子たちから人気があっても、演技やコントで非凡な才能を示しても、家族でウタ番組を観ている時に、白いぴっちりしたパンタロンに鳥の羽で飾られた衣装を着たひろみが出てきたりすると、何とも居心地の悪い思いがしたものだ。お前もこんな風になりたいのか?という家族の視線が突き刺さってくるような気がしてね。全部、思い過ごしに過ぎなかったのだけど。
 とは言っても、子供のころに海水浴場で聴いた「裸のビーナス」とか、実家の床屋の店先のラジオから流れていた「花とみつばち」だとか、中学生のときにラジオのベストテンで聴いた「バイブレーション」とか、やっぱり何だかんだ言って無視できない思い出の(郷ひろみの)曲が俺にも沢山あったりするのだ。そんなわけで、大人になったいま、ついにこんなCDBOXを入手してまでヒロミ・ゴーを愛聴しているhiroc-fontanaなのである。聴き直してみて、本当に「目からウロコ」でした。改めてここで「郷ひろみサイコー!」宣言しておきます(笑)。Single Collection of Early Days vol.2(紙ジャケット仕様)
 これは、郷ひろみの80年代までの全シングルを紙ジャケ復刻したCDBOX(生産限定盤です)で、第1集から第5集まであるうちの第2集。第12弾シングル「花のように鳥のように(1975年4月)」から22弾「洪水の前(1977年7月)」までのシングル11枚(全22曲)を収録している。まさしく筒美京平ソング・ブックであると同時に、郷・筒美二人のコラボが最も充実していた時期の作品集でもある。ほとんどの曲を筒美先生がアレンジまで手がけていて、カップリング曲を含めて筒美マニアにはもうたまらない、フックの効きまくった傑作のオンパレードなんだけど、この時期の作品って何故か通常のベスト盤の選曲からことごとく零れ落ちちゃっているのよね(まあほとんどの曲が「中ヒット」の部類だから仕方ないのかもしれないけどね)。22曲で9,900円というとちょっと割高感のあるBOXではあるけれど、忠実な紙ジャケ復刻とカラオケに加え、とにかくここでしか聞けない名曲ばかりが収録されているという意味で、俺としては特にこの第2集に関しては、その価値は大いにアリと思うのだ。
 それでは特にhiroc-fontanaお気に入りの名曲をピックアップしてみましょう。

  • 花のように鳥のように(75年4月)〜 筒美流の美味しいメロディーを詰め込んだシャッフル・ビートのメジャー調・ミディアム・ポップス。アイドルポップスの見本ともいうべき完成度で、チャート最高2位を記録した。
  • 恋の弱味(76年2月)〜 効果的に挿入される女声コーラスや、まるで打楽器のように使われるピアノをはじめ、アレンジがとにかくクール!なジャパニーズ・ソウルの傑作。のちのトシちゃんをはじめ、ジャニ系シブカッコイイ曲たちへと繋がる、そのルーツはこれでしょう。最高位4位。
  • 20才の微熱(76年5月)〜 一聴すると地味な曲ながら、アウフタクトから始まる導入部のうねるようなメロディー、本人のダブル・レコーディングによるインパクトある短いサビなど、マイナー調の凝りまくったメロディーがクセになる超名曲がこれ。最高位3位。
  • 寒い夜明け(76年11月)〜 筒美流の小粋で洒落たポップスの代表作。この曲からひろみの歌声に大人のダンディズムが漂いはじめる。最高位5位。
  • 真夜中のヒーロー(77年2月)〜 これはロック。冒頭、ピアノとベースによる「ドン・ドン」という低音のビートだけのイントロから耳を奪われてしまう。イギリスのロックバンド、クイーンの80年代のヒット「地獄へ道づれ」「フラッシュ・ゴードンのテーマ」あたりを3~4年先取りしたようなアレンジ。ミステリアスな導入部から、サビで爆発するまで独特の緊張感が漂う、こちらはジャパニーズ・ロックの傑作。最高位5位。
  • 悲しきメモリー(77年5月)〜 イントロから軽快なツイストのリズムに乗せて展開する哀愁歌謡。ひろみの初期の代表曲「よろしく哀愁」をより洗練した形で再提示した完成形とも言える。最高位5位。

 ヒロミ・ゴーの歌唱力や音楽性について言及されることは少ないけれど、この初期の作品群を聴いた人なら、このバラエティに富んだ音楽性と、それを見事に呑み込んで歌いこなす彼の柔軟性にびっくりさせられるに違いない。
 もっとも、ヒロミ・ゴー、そのジャパニーズ・ポップス史上稀に見るヒット歌手としての息の長さを考えれば、その確かさは語らずとも自ずと証明されているような気もするけのだけどね。
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