桑江知子「ブルーブルーアイランド」

hiroc-fontana2008-11-22

 桑江知子さんはアイドル氷河期とも呼ばれた1979年デビュー。デビュー曲である化粧品CMソング「私のハートはストップモーション」がスマッシュヒットして数々の新人賞にも輝いた。このデビュー曲は当時の趨勢であったニューミュージック風のサウンドを施して洗練された雰囲気を醸し出していたものの、キャッチコピー的なタイトルが災いしてか、テレビ局での扱いは完全に「アイドル仕様」で、オールスター大運動会や何やらにも借り出されていたような記憶がある(彼女、ナベプロ所属だったしね)。そのあたり、70年代後半にデビューしたポップス系女性シンガーたちは、竹内まりやさんしかり、杏里しかり、地味なところでは越美晴とか、のちに自作自演アーティストとして認められる人たちも皆、当時は半分アイドルのような売られ方をしていたのよね。言い換えればあの頃は、テレビというメディアではソロの女性シンガー(ソングライター)というのは、そういうやり方でしか出られなかった、そういう時代だったんだと思う。(まあ正直言って、桑江知子さんについては「黒いサブちゃん」ことバカラックの歌姫ディオンヌ・ワーウィックを彷彿とさせるその個性的(!)ルックスから、アイドルで勝負するのにはもともと無理があったようにも思うのだけどね。ゴメンナサイ(涙))
 「ブルーブルーアイランド」はそんな彼女のセカンド・シングル(1979年5月発売)。デビュー曲と同様に、サビのメジャーセブンス系メロディーが爽やかなポップス。前サビ「さよなら〜さよなら〜遥かなブルーアイランド」の「ア〜イランド」の部分でファルセットになるところがゾクゾクするほど心地良い。そう、桑江知子さんはとってもウタが巧い歌手なのだ。声は艶のあるアルトで、特に低音部分のしっとりとした情感と、声を伸ばしたあとの聖子ちゃんばりの「しゃくり上げ唱法」が特徴。アルバムではソウルっぽい曲を少し強い発声で見事にこなしていて、どんな曲にも対応できるボーカルセンスを感じさせてくれる人だ。
 「ブルーブルーアイランド」の曲構成はちょっと複雑で、爽やかな導入部となる短い前サビのあと、曲はシャッフルビートのマイナー調のAメロに変わり、緊張感ある展開。そして、前サビのバリエーションとして同じ歌詞を別のメロディーに乗せたメジャーコードの大サビへ。この開放感も聴き所。2コーラス目はAメロ〜大サビから導入部の前サビがもう一度出てきてエンディングという構成。
 当時、俺はこの曲が本当に大好きで、けっこうラジオにもリクエストしたりしたのよね。
 でも。いざフタを開けてみれば、これがオリコン最高位93位!の大コケで(笑)。デビュー曲「私のハート〜」はベストテン近くまで上昇したのに、大好きだったこの曲がいつまで待ってもベストテン番組に登場しなくて、当時中学生だった俺は「何で?何で?」ととてもショックだったのを覚えている。当時は50位以下のチャートはほとんど情報入手することが出来なかったからね。93位じゃあ、ベストテンにかすりもしないわ(笑)。桑江さんは次の3rdシングル「クリスタル・ハネムーン」(これもなかなかの曲)と翌年の自動車CMソング「永遠(エテルナ)の朝」がそこそこヒットしてしばらく延命したから良かったものの、このセカンドシングルの大コケは、たぶんご本人もスタッフもショックだったに違いない。
 ちなみこの曲、作曲は「私のハート〜」と同じ都倉俊一氏だ。都倉さんといえばやっぱりピンク・レディーや山本リンダフィンガー5の印象が強くて、どうしても下世話な歌謡曲のイメージが強いのだけど、それはイメージだけの話であって、PLの一連のヒット曲はいま改めて聴くと実に名曲揃いだと思うし、一方でペドロ&カプリシャス「ジョニイへの伝言」・「五番街のマリーへ」とか麻生よう子の「逃避行」、ヒロミゴーの「ハリウッド・スキャンダル」など数々の名曲を生み出している人であることを思い出すと、その洗練されたメロディー・メイカーとしてのセンスは、あの筒美京平さんに負けてないかも、とも思うのね。近々、都倉さんの作品集(CDBOX)が発売されるそうだけど、これを機にこの人ももっと再評価されたらいいな、なんて思う。
 さてハナシを桑江さんに戻すと、彼女にとってはちょっと不遇なアイドル時代ではあったけれど、その後はラテン音楽や出身地である琉球民謡に取り組んだりして、今も地道な音楽活動を続けているらしい。ローカルFM局のDJとしても活躍していて、実は俺の姉も桑江さんのDJ番組で彼女からインタビューを受けたことがあって、姉曰く「とっても感じのいい人だったわよ」と。あ、これはルックスをけなしたことをフォローするための作り話ではないので、そこんとこよろしく(汗)。