早見優「夏色のナンシー」

ゴールデン☆ベスト 早見優 筒美京平POPSベスト
 夏といえばこれ!という感じの超有名曲を今日は取り上げました。
 1983年4月発売。優ちゃん5枚目のシングルにして初のトップテン入りを果たした出世作。というより、彼女の代表作(最高位7位、売上げ27万枚)ね。コカコーラのCMソングとして大ヒットしました。
 「ナンシー」の次にリリースされた「渚のライオン」はずいぶん前にここで取り上げたのだけど、ジャングル・ビートの「渚のライオン」が熱帯雨林的な蒸し暑さを醸し出すのに比べて、やっぱり「夏色のナンシー」はリゾート感覚溢れるハワイの砂浜のような涼しげなイメージで、同じ優ちゃんの夏ウタながら、随分と印象が違う。ちなみに作詞:三浦徳子、作曲:筒美京平、編曲:茂木由多加の作家陣は2曲とも同じなんだけどね。個人的には「ライオン」の方が好みなのだけど、やっぱり「ナンシー」のキラキラ・リゾート感はアイドルの夏ウタの中でもピカ一の輝きを放っているような気がするのよね。
 この曲、不思議にいつ聴いても瑞々しい印象があって、それは歌う早見優ちゃんの帰国子女特有のドライで明るいイメージもあるとは思うのだけど、俺としてはやっぱり職人・筒美さんの「これでもか!」というくらいインパクトあるメロディーの畳み掛けに負うところが大きいように思うのね。
 ちょっと細かく見てみようと思う。
 まずは短いイントロに続いての冒頭部分。

 恋かな(YES!)恋じゃない(YES!)
 愛かな(YES!)愛じゃない

ここのメロディーは、ちょっと聴くと歌謡曲のサビなどで良く使われる、ベースコードが半音ずつ下降していく旋律(クリシェ?とかいう)のように聴こえるのだけど、実は「そうじゃない〜(YES!)」。下がりそうに思わせて実は下がらない、ギリギリのコードとメロディーでオープニング4小節を思い切り引っ張るのね。そして。

 風が吹くたび 気分も揺れる そんな年頃ね

ここで初めて、哀愁の下降旋律(美メロ)に入るという仕掛け、しょっぱなからこの引っ張り具合がまずスゴイ。
そして、沖縄3姉妹「EVE」によるコーラスが入る。これがまたシャレてる。

You&me splushing along the beach
Summer Time
Only two of us along the beach
Summer time

このコーラスで微妙に陰のあるマイナーコードが絡んでくるあたりがなんともシブイ造りで、ここが最初の聴きどころなのね。まさに夕暮れに染まる砂浜のイメージ。
そして続くAメロ。

 プールサイドで瞳を閉じる
 そんな私をあなた気にしてる

Aメロ導入部はえ?という感じの「ど」マイナー・メロディー。2フレーズ目の「そんな私を〜」からはブルー・ノートのとても複雑なメロディーラインながら、ナニゲに親和的なコードを使って自然にメジャー調に戻しちゃう、という離れ業をやってる。

 あなたのあとを着いてくだけの

このフレーズは比較的わかり易いコード進行で少し安心させておいて。だけど次のメロディーでまたびっくり。

 女の子からは卒業したみたい

なんじゃ、この音の飛び具合は!そのうえ、「女の子からは、卒業」まではマイナーメロディーで「したみた〜い〜」だけメジャーになってる。優ちゃん、こんなヘンテコなメロディーラインを良くも歌えたな、みたいな。
そして最後に極めつけのサビ。ここでやっと筒美センセイ本来の美しいメロディーが登場。

 If you love me 夏色の恋人
 If you love me 夏色のナンシー

素晴らしい!この美しいメロディー・ライン。そして優ちゃんのネイティブなカッコイイ発音(エフ・ユウ・ロウヴ・ミイ!(笑))この開放感こそがこの曲のキモなのだ。
しかし、その余韻も長くは続かず・・・

 去年とはくちびるが違ってる・・・

サビの開放感から一転、またもや全く別のモチーフが挟み込まれて、リスナーは一瞬にして現実に引き戻される。
そして冒頭に戻って「♪恋かな(YES!)恋じゃない(YES!)」のコーラスが再び登場。

 以上がこの「夏色のナンシー」の曲分析なのだけど、これほどパッチワーク的に様々なメロディーが登場している曲なのに、レコードを聴く限りではとても自然な流れで一曲として聴けてしまうあたり、本当はとてもすごいことなのかもしれないよね。実際、これを鼻歌で歌ってみようとすると、なんだかわからないけどすんごく難しいのよ(笑)!
 「夏色のナンシー」という曲が今だに新鮮に聴こえる理由は、つまり、一曲の中に実に様々なタイプのメロディーがギュッと詰まっている「ひとりメドレー」形式の曲だからなのね、たぶん(笑)。