松本伊代『風のように』

風のように+7(紙ジャケット仕様)
 お久しブリンコ、なカンジの更新でして。ほんっと〜に、忙しくて・・・。
 さて今回は、いかにもおひさしブリンコ!なんてご挨拶がお似合いな、イヨちゃんです。
 イヨちゃんは81年10月デビューの、花の82年組。。。え?ちょっと待ってイヨちゃん!インチキ82年組じゃない?(当時のいわゆる「新人賞」というものの期間の区切りが、9月だったからということみたいだけど。)
 まあそうは言っても、たのきんの妹分としてデビュー前から顔をバンバン売った甲斐もあって、デビュー曲「センチメンタル・ジャーニー」はいきなりトップテン入り、30万枚越えの大ヒットで、花の82年組の中でもトップを切っての大活躍だったのよね。セイコ・奈保子・芳恵に続く華やかなアイドル黄金期の立役者である、花の82年組をリードした存在であることは確かよね。あの筒美センセの曲を歌ったのも、82年組ではイヨちゃんが最初だったしね。
 でも、セカンド「ラブ・ミーテンダー」は最高位11位に終わり、以降「TVの国からキラキラ」13位、「オトナじゃないの」16位と、その後のイヨちゃんはじりじりと右肩下がり。82年組の代表格として新人賞を総なめにした輝きはいずこ、というカンジで。いつの間にアキナに抜かれ、キョンキョンに抜かれ、果てはちえみや秀美や優ちゃんの後塵を拝すことに。 その妹的でクセのない(≒色っぽくない)キャラが却って邪魔をしたのかしらね。
 俺としては、スレンダーなスタイルとアンマッチな“ヘンな声”が、最初はちょっと苦手だったのよね〜正直。ちょっと爬虫類系な印象で。“イヨ”って名前もどこか柑橘系なカンジで、なんとなく“酸っぱい”イメージがしてね(笑)。あ、ごめんなさい、イヨちゃん、ちょっと言いすぎね。。。(汗)
 そんなイヨちゃんを見直したのは83年の9thシングル「時に愛は」。これは尾崎亜美さんの提供曲ね。伊代ちゃんはこの亜美さんの瑞々しい曲を実に丁寧に、ニュアンスたっぷりに歌い上げて、見事にトップテン入りさせたのよね。その後しばらく亜美さんの曲を連続リリースして、音楽的に格段に幅が広がったイヨちゃん。途中、再び筒美センセの曲に戻っての「ビリーヴ」のヒットを挟んで、遅ればせながら伊代ちゃんならではの世界がいよいよ完成したと言えるのが「恋愛三部作」といわれる、86年からの林哲司氏による3作(「信じかたを教えて」「サヨナラは私のために」「思い出をきれいにしないで」)だったのよね。ヒットの規模としてはどれもトップ20周辺を掠(かす)るくらいの中ヒットに終わったものの、いずれも松本伊代の代表曲として外せない曲。
 今回の紹介する『風のように』は、この恋愛三部作を含む、1987年発売の10thアルバム。全編の作詞を川村真澄が努め、女性的な恋愛観に満ちた繊細かつ濃厚な世界を展開。作曲は10曲中9曲が林哲司氏で、残り1曲は三部作に続くシングルでもある「すてきなジェラシー」(本盤のラストに収録)作曲の岸正之氏。
 シングルの成績ではいまひとつパッとしなかったイヨちゃんは、全盛期当時からどことなく70年代アイドル的というか、ウタよりも可愛さや明るいキャラで勝負みたいな、バラドル色濃厚なカンジでしたけど、今更ながらこのアルバムの完成度の高さを見るにつけ、音楽性でも高いレベルを誇った80年代アイドルの王道、その中でもトップクラスだった!と言えるかもしれない。こちらは、それくらい、良く出来たアルバムです。
 イヨちゃんの声は線が細くて決して押しは強くないけれど、音程をしゃくったりビブラートをかけずに真っ直ぐに音を出すところや、語尾をフワッと抜く軽さが、林氏独特の都会的なメロディにとても良く合うのね。これは尾崎亜美さんの曲にも言えることで、そうした本人のキャラクターにマッチした作家を選んだスタッフの選択眼の良さだと思う。まあ、デビュー当時のイヨちゃんの平山ミキばりの“ふてぶてしい”ボーカルのままではこのニュアンスは出せなかっただろうけど(笑)そんな彼女のボーカリストとしての成長も伺えます。
 アレンジは全編、船山基紀さん。こちらも突然スウィング・アウト・シスターが出てきたり、ガゼボだったり、ちょっとバブリーな時代をカンジさせるところもあるけれど、当時流行の洋楽テイストが味わえて楽しめる。ビックリなのは「すてきなジェラシー」。この一瞬レトロなド派手なアレンジ、岸さんのどちらかというと素直過ぎて味気ないメロディーをアレンジだけでひっくり返しちゃうようなスゴイ出来で、一聴の価値あり。
 それにしても「信じかたを教えて」の歌詞は、すごい。「信じかたを教えてよ・・・」に続けて

 昨夜の花束 数えなおしてる 
 そうよ 何も変わってないね 

とか、

 ひとりの夜に 流す涙も
 あなたが知らなきゃ 意味もないのに

なんてフレーズが出てくると、え〜?オンナって恐いわ〜、と思わずにはいられないのよね。
相手のことを信じきることはできないけれど、それは相手だけが悪いんじゃなくって、信じ切れない自分もいけないんだってこと、主人公の彼女は十分にわかってる。そんなふうに醒めた自分がいる。でも、どうすればいいの?教えて!って言ってるわけよね。
この、ひとりよがりな理不尽さ、ね(笑)。それがついには次作では

 サヨナラは私のために それともあなたのために
 楽しい日々は 無駄じゃないけど
 約束もできないくせに 電話をかけて来ないで
 心から嘘ついたの それも自分に

となり。。。サヨナラするっきゃないわ、みたいな。
三部作締めくくりの「思い出をきれいにしないで」では、こうなる。

 見つめて 見つめて あの頃のわたし
 きれいな思い出にしないで

切ない幕切れだけど、やっぱりちょっと、こわい。
でも。。。ちょっとだけ、わかるような気がする。この気持ち。
このアルバムで3曲を通して聴いて、是非体験してみて。このモヤモヤした恋愛のもどかしさ。