1985年、夜へ向かう明菜 その2〜「SOLITUDE/AGAIN」

hiroc-fontana2010-09-01

 前回からつづく。黄昏に佇み、やがて舞い降りる夜へと向かうアキナ。
 今回は「SOLITUDE」。
1985年10月9日発売。
作詞:湯川れい子、作曲:タケカワユキヒデ、編曲:中村哲

 25階の 非常口で
 風に吹かれて 爪を切る
 たそがれの街
 ソリテュード

そう、またも“たそがれ”だ。しかし、この曲の舞台は異国ではなく、東京。「ミ・アモーレ」で男とはぐれ、「SAND BEIGE」ではひとり砂漠を彷徨いながら寂寥感を噛み締め、「椿姫ジュリアーナ」で我に返って虚無を見つめた女は、この曲ではついにママゴトアソビのような男女関係を否定して自分から孤独を選び取る。なんだかすごいと思うのよ、この流れが。。。
 「SOLITUDE」の曲構成は、抑揚のない単調なAメロの繰り返しのあと、サビというにはあまりにけだるいBメロを繰り返したあと「♪Let's play in solitude」のキメで唐突に終わるというもので、単調この上ないつくり。シングルとしてはあまりにフックが無く、当初アルバム曲候補に過ぎなかったこの曲を強く推したのがアキナ本人だというのだから、おそらく彼女はこの「詞」に何か強い引きを感じたのだろうと思う。
 その後のウィスパー唱法の走りとも捉えられるここでのアキナの抑制の効いたボーカルは、曲調に反してハデなブラコン調のクール・アレンジと良くマッチして、都会の中の寒々しいまでの孤独感を倍化させているようだ。1985年のアキナのひらめきは、本当にすごかったのかもしれない。
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 そして、カップリングはアキナ・バラードの知られざる傑作「AGAIN」。
 作詞・作曲は、シンガーソングライターのあらい舞。
「♪西陽のテラスに潮風のにおい あなたの肩で夕焼け見てた」 
 そう、アキナは1985年の後半ずっと、黄昏を彷徨っていたのだ。やがて来る夜を前に、行ったり来たりを繰り返しながら。

 逆もどりしてゆく二人 過去を愛してゆく
 夏の光 あなたの愛 すべてだったわ
 戻れない切なさ 消えるまで燃えて
 海へ 海へ 沈むまで 

 まるでつぶやきのような細かな譜割りの、フォーク調の切ないメロディーを、感情を込めすぎずさらりと歌うことで、儚げな声に込められた切迫感が醸し出されてくる。
 去りゆく夏の淋しさも相俟って、歌の主人公は恋人との別れを確信しながらもこう呟き続けるのだ。
「♪くだけちる波のように抱いてあなた 空へ 空へ とどくまで・・・
 again...again...again...」
 「SOLITUDE」は、ただの強がりだったのよ・・・戻りたい・・・でも戻れない・・・という逡巡に最後の最後まで囚われ続けるアキナ。(ここにも彼女の“その後”をちらり垣間見てしまう。。。涙)
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 そして、アキナの昼の時代は終わる。1985年のアキナ飛躍の原動力は、カップリングをはじめとしてとにかくそれまでと比較して格段にイイ曲に恵まれたこと。イイ曲に出会うことで表現の可能性を探りながら、それこそ黄昏時のような様々な色、感情、匂いを吸収しきって、いよいよ深い夜の世界へと、その果てしなく広がる闇の空間へと足を踏み入れていくことになるのだ。
 そして1986年。。。「ゲラ、ゲラ、ゲラ!バ〜ニラ〜〜〜アアア!」とアキナの雄叫びが夜の闇に響く。。。
ちゃん、ちゃん。