『中森明菜in夜のヒットスタジオ』

 今年、彼女のパチンコ台が出たときのイベントに登場して“1位をいっぱいいっぱい出していたときの明菜ちゃんを見てね”みたいなことを言い放って、相変わらず自虐的な様子を見せながらも本質的には多分、自分が大好きなのだろうな、なんて思わせてくれた、明菜。
 百恵さんに続いて出た、この“夜ヒット”DVD。休業中の明菜は暗い部屋でひとり、この映像を何度も見返しながら、あの輝いていた時代の思い出に耽っているのかしら・・・なんて、まるで『サンセット大通り』に出てきた往年の大女優を想像しちゃったりして。
 でもね、今改めてこのDVDで“夜ヒット”の明菜を観直すとね、“ああ、明菜はこの番組に命懸けてたんだな”という気もしてきて、自分が好きでというより、自分が苦労して作り上げてきたもの(歴史)を忘れて欲しくなくて、休業中の今のこの微妙な時期にこのDVD発売を決断したのかも、と思えてきたのよね。それくらい、ここに収録されたパフォーマンスは完成度が高いし、衣装やセットも含めておっそろしく気合が入ってる。明菜の足跡そのもの、といった印象がある。

中森明菜 in 夜のヒットスタジオ [DVD]

中森明菜 in 夜のヒットスタジオ [DVD]

 初々しい初期のパフォーマンスは別として、地味だった5作目のバラード「トワイライト」あたりから意外にもその後の“演じる”明菜の片鱗が見え始めて、「十戒(1984)」の上体反らし(イナバウアー)あたりからは、目線・振り付け・衣装も含めて、トータルに魅せる明菜が出来上がってくる。
 前にも書いたことがあるのだけど、明菜はやっぱりCDで聴くより、動く明菜を観るのがイチバン。その意味で、物理的ないろいろな面で制約のあるライブ映像ではなく、テレビの歌番組の映像はベストだと思うのね。顔がどアップになるから目線の細かな動きや表情がよく分るし(実際アキナは声よりも表情で繊細な表現をするので、顔アップは必須なのだ)、独特の曇った低音もテレビならマイクがよく拾うし(笑)、何より毎回衣装が変わるのでそれだけでも見る価値は大いにアリ。CDではイマイチだった印象の「SOLITUDE」とか「ジプシー・クイーン」とか「I MISSED“THE SHOCK”」あたりが、明菜の動き・衣装・セットを含めた演出の相乗効果で、見事に生まれ変わっているのだ。
 明菜の場合、どうしても百恵さんとの比較で見てしまいがちなのだけど、百恵さんが番組のオープニングメドレーからほとんどスキのないパフォーマンスでプロ根性を見せていたのに対して、明菜は歌詞は間違えるし紹介する歌手の名前を忘れたりして、ヒドイのね。オープニングメドレーは“見る価値なし”(笑)。でもね、またそこが明菜らしい、というところであって、自分の出番でのパフォーマンスに集中していたぶん、オープニングメドレーでは息を抜いていたのかもな、とも思えるのだ。実際、歌の前の芳村真理らとのカラミも、いつも心ここにあらず、という感じでトークも面白くなくて、そうやらそれは本番前の緊張感からくるようなのだ。
 それと、百恵さんがほとんど決まって、新曲を歌うとき1回目のパフォーマンスが最も集中力があって素晴らしいのに対して、明菜は2回目3回目とどんどん良くなってくる曲が多くて、二人の違いではその辺りもとても面白かった。振り付けも全て自分で考えていた明菜は、スタッフの要求を完璧にこなすことで輝いていた百恵さんとは、歌への取り組み方も違っていたのだろうな、ということが分るのだ。
 それにしてもこのDVDで気に入らないのは、フルタチが司会になってからの回(1985年〜)は歌前のトークが全てカットされていること。(つまりフルタチからNGが入ったということね・・・怒。)明菜は夜ヒットではシングル曲以外にもアルバム曲やカップリング曲を数多く披露してくれているんだけど、フルタチのお陰で歌前に交わされたであろうそれらの曲に関するトークも説明もありゃしない。ジャニ系は肖像権がうるさいから仕方ないにしても、フルタチ、アンタはジャニーズかっつうの!今後、聖子やキョンキョンでこのシリーズ(と勝手に呼んじゃう)のDVDがもし出るとしても、フルタチが障害となる可能性は高いわけよね。それと、「北ウイング」「サザンウィンド」の2曲がカットされているのも解せない。たぶん、夜ヒットでも歌っているはずなんだけど、こちらも誰かのNGが入っているのかしら。う〜ん、ナゾ。
 (ところで、なんと聖子さん、このDVDの中で明菜の後ろで何度か登場していて、今後、聖子版“夜ヒット”DVDリリースの可能性はゼロじゃないかも・・・という希望的観測が。。。どうかしら、聖子さん!)
 さて、最初はふくよかで声の細い明菜が、表情が大人びてスリムになるにつれて声もだんだんドスが効いてきて、それに妖艶さや雄叫び(!)が加わってついに全盛期を迎えたあと、マッチとの破局(「LIAR」で薬指のルビーの指輪を外す)とともに激ヤセ(憔悴)してどこか儚さを漂わせるようになり、そして今を迎える・・・みたいな彼女の30年の変遷が、このDVD集では痛いほどに全てが記録されていて、そんな彼女の姿をみるだけでも何だか重みを感じる映像集。80年代アイドルファン、というよりすべての歌謡曲ファンにぜひ観てもらいたいDVD集。