ジキルとハイド・それは究極のデュオ〜『ピンク・レディー in 夜のヒットスタジオ』

 俺はピンク・レディーど真ん中の世代。76年の「ペッパー警部」でのキワモノ的デビューから、77年から78年に吹き荒れたピンク旋風も、その後の急激な凋落とその果ての哀しい解散も、全部、リアルに見てきた。レコードを買い集めるような大ファンとは言えないまでも、新曲が出るたびに“こんどはどんな曲なんだろう”とワクワクしながらテレビやラジオから流れる彼女達の歌声に耳を傾ける、そんないわゆる“一般的なファン層”であったことは間違いない。
 ただそんな俺でも、今改めて“なぜピンク・レディーがあれほどの人気を得たのか”と問われると、実のところ「よく分らない」と答えざるを得ないのが不思議だったりする。
 確かにデュオとしてのピンク・レディー(以下PL)の並外れた実力や、特に初期の阿久悠・都倉俊一コンビによる曲のクオリティ、そして斬新なダンス・パフォーマンスなど、“後追いで”評価するなら素晴らしい点は多々ある。でも例えばPLの“ダンス”だけをとってみれば、ミニスカートで大股開きしたり(「ペッパー警部」)、素潜りのマネをしたり(「渚のシンドバッド」)、頭の後ろからオッペケペー〜みたいに手を出したり(「UFO」)、奇を衒ったかなりヘンテコなものばかり。今のアムロやエグ○イルのダンスパフォーマンスからすれば、たとえ30年の時の流れを差し引いたとしても、とてもダンスなんて呼べるシロモノじゃなかったりするのだ。
 やっぱりPLはひとつの「ブーム」だったのだろうな・・・そう思う。中身はどうあれ、流行りものがあって、流行っているからというただそれだけで更に多くの人が飛びつき、そしてブームが生まれる。
 そんな「ブーム」の渦中で途方に暮れていたのはまさしく、当の本人たちではなかったか。このDVDを観ていて、まず感じたのはそんなことなのね。「なんで、こんなことになってしまったの?」そういう本人たちの心の中の自問自答、ずっとその疑問が解消されないまま日々が過ぎ去り、ブームに翻弄され消費されていくふたりの女の子。そんなPLの足跡が当時のTV番組の映像によってありありと記録されている、このDVD。
 まずはデビュー4ヶ月経ってようやく初出演となった76年12月の「ペッパー警部」、その二人の初々しくも完璧なパフォーマンスに新鮮な驚きがある。とにかくハーモニーの息がぴったり。そしてまだふくよかで(特にケイちゃんのふっくらに注目!)若い二人に漲るエネルギー。その魅力あるパフォーマンスに目を奪われる。「ただのキワモノじゃ、なかったんだ・・」俺も改めて反省。
 そして上昇気流に乗って歌も振り付け(このころはまだ“ダンス”じゃない)も絶好調な「SOS」、このあたりまではケイちゃんの声がまだ疲れておらず伸びやかで、ミーの声と良く溶け合っていてハーモニーがとにかく良い。デュオなのにハーモニーがとても厚く聴こえる。これって、すごい。
 連続1位記録更新の77年の「カルメン77」「渚のシンドバッド」あたりからダンスの激しさとハードスケジュールが重なってパフォーマンスに次第に粗さが見え隠れしてくる。それが「ウォンテッド」(ケイちゃんが歌詞を間違える)「UFO」で顕著になり、このころを境にケイちゃんが激ヤセ、そしてダンスもイイカゲンさ(苦笑)が目立ち始めるのだ。俺の当時のPLの印象は「PLの歌はいつも息絶え絶え、そして頑張るミーちゃん・今にも倒れそうなケイちゃん」(笑)だったのだけど、この時代のイメージが強いのね、きっと。
 そして人気が明らかに下降線に入った79年頃の映像がとても象徴的で、アメリカ進出のための本格的レッスンを積みながらも国内では従来の「ダンス歌謡」路線を強いられることへの戸惑いが感じられる「波乗りパイレーツ」はどことなく精彩に欠け、一方アメリカで一定の成果を得た自信が伺える「マンデイ・モナリザ・クラブ」「キッス・イン・ザ・ダーク」の堂々としたパフォーマンスは、もしかすると彼女達が最も輝いて見えるかもしれない。
 問題は、歌前のトークで司会の井上順が「(アメリカの番組が)打ち切りになった」と何故かしつこいくらいに繰り返して当時の彼女たちへのバッシングを伺わせる80年の「世界英雄史」の映像。「何故こんな風に言われてしまうの?」という彼女たちの心の葛藤と、それを諦めとともに受け入れたかのような開き直ったパフォーマンスが、妙に激太りしたケイちゃんのルックスとともにとても痛々しく見えるのだ。
 解散を決めた「うたかた」「フェーム」のころは、むしろ二人の顔が穏やかで仲も良さそうで、そこに救われたりもする。
 さて、改めてPLの魅力は何だったのだろう。
 ファンである私たちを楽しませるために、華やかさの裏で過酷なレッスンを積み、常に最高のパフォーマンスを提供しなければならない大スターの宿命、その痛々しさ。それを生々しく見せてくれた存在、それがPLだった。そのPLのメンバーは、いうまでもなくミーとケイというふたり。俺は、この二人の絶妙なバランスこそがPLの最大の魅力だったのではないかと今更ながら思ったのだ。
 いつも優等生的でニコニコとしていて、スキのない歌とダンスで魅了するサイボーグ、ミー。
 一方、嬉しさ・悲しみ・辛さ・戸惑い、そんな生身の人間的な心の動きがすぐに顔に現れて、それが歌やダンスにも影響してしまう不安定な女の子、ケイ。
 そんな、まさしく「虚構」と「現実」を体現したような特徴的な二人の女の子がデュオを組み、息の合ったハーモニーと激しいダンス・パフォーマンスを繰り広げる。だからこそ観ている私たちは、モンスターとか操り人形とか言われた彼女たち・PLに、一方で生身の人間としてのシンパシーを感じていたし、そんな彼女達から目が離せかったのではなかろうか。つまり、オモテの顔・ミーとウラの顔・ケイ、その二つの顔が常に同時に見られたからこそ、PLは最大限の魅力を発揮できたのではないかと。そんな風に思ったのだ。
 実際俺自身、このDVDでPLの映像を観ていて、ダイナミックに歌い踊るミーと、時にぎこちなくあやふやなダンスのケイを、交互に視点を動かしながら頭の中で“映像ミックス”していることに気付いたのだ。そうすることで、オモテ側のミー(ジキル)とウラ側のケイ(ハイド)、その究極のふたりの絶妙なバランス、PLの最大の魅力を無意識のうちに頭の中で抽出し、味わっていたのだ。。。
 
 あら、ついつい熱が入って長い文章になってしまって・・・ゴメンナサイ。とにかく二人が今も現役で、何よりPLとしての活動を本人達が楽しんでいることが、たった4年半のPLの活躍を「ブーム」としてだけでは終わらせたくないという意志にも思えて、後日談としてはとても良い話になっているな、なんてことも思っている。 
 さて最後に付け足し(笑)。このDVD、シリーズとしては最も入手しやすいお手ごろ価格(笑)。それだけ彼女達の映像が少ないという、全盛期のPLの超多忙スケジュールを象徴しているわけだけど、PLの魅力を堪能するには充分な内容。梓ミチヨ姐さんのぶっとびパフォーマンス(カルメン'77)とか、オープニング・メドレーを含めて楽しめます。歌謡曲全盛期に少年・少女時代を過ごした歌謡ファンのアナタにオススメ。