セイコ・アルバム探訪3〜『Forever』

Forever(紙ジャケット仕様)
 セルフ・プロデュース作品。1998年5月発売。アルバムチャート最高位12位。売上げ10万枚。この時期セイコさんはソニーからマーキュリー(現ユニバーサル)ミュージックに移籍しており、マーキュリーからリリースされたフルアルバムとしては3作目にあたる。
 俺、このアルバム、数あるセイコさんの凡庸で退屈なセルフ作品の中では何故か飛び抜けて好きな1枚で、いまだによく聴くのよね。
 以前の聖子さん関連エントリーのコメントで、私の強力なサポーターであるCremorne pointさんが「(30代の頃の聖子さんは)いかに作詞能力(日本語能力)が稚拙で幼稚でも、何か近況報告的な、ファンとの間にメッセージを送ろう、という感じで双方にコミュミケーション関係が成り立っていた気がする」と言われていたのだけど、この『Forever』は、その意味ではとても典型的な作品のように思うのね。聖子さんの詞は相変わらず言葉選びがヘタッピイなんだけど、今聴くと何だか、そう・・バッシングされながらも再度のアメリカ進出や何やら、一生懸命にチャレンジしようとしていた当時のセイコさんの思いがひしひしと伝わってきて、どこか愛おしくなってくる感じ。
 それに一役買っているのが、鳥山雄司によるサウンド・プロデュースだと思うのだ。アコースティック・ギターをフィーチャーした乾いたアメリカン・フォーク&ブルース的な音作りが効いていて、それがセイコたんの独白的な詞の中にそこはかとなく漂う“孤独感”や“寂寥感”を浮かび上がらせることに成功しているような気がする。

誰のもの・・・この人生 かけがえのないもの
私だけ 守れるのは
生きていく 自分の道 悔いのないよう
 (「Forever」作詞:Seiko Mastuda)

 これはオープニングのタイトル・チューンの詞なのだけど、例えば普通なら「この人生 誰のもの / 守れるのは 私だけ / 自分の道(を)悔いのないよう 生きていく」という単語の並びになるはずなのだけど、聖子さんだとこれが逆になっちゃう(笑)。多分、鼻歌みたいに詞と曲を一緒に作っているからこうなっちゃうのだろうけど、この作品の場合に限ってはちゃんとこれが正解になってるのね。「誰のもの」「私だけ」「生きていく」という言葉をフレーズの頭に持ってくることで、聖子さんの強い意志、信念のようなものがしっかり伝わってくる。
 このアルバム、そんな感じで恐らく聖子さん自身の意図にかかわらず色々な何かがことごとく奇跡的に「ハマった」(=上手く作用した)作品なのかも、とそんな気もしてきてね(笑)。
 さて、それでは収録曲の紹介。もちろん全作詞:聖子、全作曲:聖子&小倉良です(苦笑)。アレンジは、M5,M9&10を除き鳥山雄司

  • Forever

 ラジオのチューニング音(イメージ)からアコギのカッティングのみのイントロがフェードインしてくる。乾いているがどことなく哀愁を帯びたギターのフレーズが荒涼とした砂漠をイメージさせる。どこかで聞いたことがあるフレーズだけどまあいいや、みたいな感じ。そう思わせるほどに導入として素晴らしい。アメリカン・ドリームとも重なる聖子さんのストレートな詞も孤独を感じさせながら力強くて、この曲の成功でこのアルバムの好イメージの半分は決まったようなもの。

  • 恋する想い〜Fall in Love〜

 雰囲気はクラプトンのあの曲に似ているけど、独特の哀愁歌謡的なメロディーが作曲家セイコらしいな、と思わせるバラードの佳曲。「♪ その胸に受け止めてね〜」とメロディーの終わり部分を終結させないのがセイコ流なの...知ってた?のちにシングルカットされ最高34位を記録。この曲こそ、もっとライブで唱えばいいのに。。。

  • 眠れない夜

 偽ブラスと偽クラップハンズで始まる(笑)モータウン調ポップス。実はファンの間でも結構人気の曲だったそう。セルフのアルバム曲には珍しく以前はライブの定番曲としてセットリストに入ることも多かった。確かにアルバムの流れにメリハリを付ける意味でもここでこの曲が出てくる意味は大きいように思う。もろシュープリームスですけど。詞のほうは「みんなが彼に夢中なの。ライバル多くて、夜も眠れないわ。」みたいな世界。トホホ(笑)

  • Can't Say Goodbye

 こちらはドラムスの不思議なフィルで???と思わせておいて突然シンセ・ストリングスによるクラブ・ミュージック風イントロに移行するアイデアが秀逸。セイコさんはウィスパー&ハスキー唱法でセクシーなボーカル。「♪ こんなに苦しいの 二人の人を愛した」のが“私”ではなくて“あなた”。だから「苦しい」のは“私”で、「だけどCan't Say Goodbye」なわけ。ん?もう少し歌詞の整理が必要ね(笑)。

  • 悲しい秘密

 この曲のアレンジのみ小倉良&石塚知生。いつものセイコ・バラードという感じ(しつこいビブラートの片鱗も聴けるのだ)だけど、友達の彼を好きになったこと=「悲しい秘密」というタイトル付けは、まあセイコさんにしてはグッジョブでしょう。

  • Epilogue〜結末〜

 サウンドはジャネット「Got 'Til It's Gone」のモロパクリ。いけませんね。でもジャネットのあの曲のPVの南部的イメージが、これまたこのアルバムのアメリカンな印象に一役買ってしまうのだから、結果オーライというべきか。「♪ 戻りたい〜〜〜」という切ないしゃくり声が絶好調。

  • 風に吹かれて

 イントロのブルースっぽいアコギがイイ。必殺の3連哀愁バラードで、泣きの入った切ないセイコさんのしゃくり声もこの曲のイメージによく合っている。1曲目「Forever」とともに、このアルバムの乾いた寂寥感を決定づける佳曲。「♪ 風に吹かれ 旅に出たの 沈む夕陽 泣けるほどきれい」。あまりにストレートだけど、好きだなあ、この曲。

  • しあわせをありがとう

 イントロは「愛と青春の旅立ち」みたいで。あなたが大好き、シ・ア・ワ・セ、ありがとう!みたいな。やれやれ。メロディーは悪くないんだけどね。あまりにも内容にふくらみのない凡作。まずダメよ、こんなタイトル付けちゃ。

  • Dear Father

 アレンジは小倉良&栗生直樹。タイトルはマドンナ、メロディーはジャネット(「Again」)のパクリ。まあ、初めてセイコさんがお父さんを歌ったという意味では価値があるかもしれないけどね。だったらデビューを反対された確執を乗り越え今がある、みたいな部分も表現して欲しかったのだけど・・・セイコさんには無理な相談ね、たぶん(笑)

  • I love you

 こちらもアレンジは小倉良&栗生直樹。ピアノをメインにシンプルなバラードと思いきや、これは隠れた名曲。クラシカルな美しいメロディーの素晴らしさもさることながら、間奏でキイチェンジして壮大に入ってくるストリングスと、そのあとシンプルなバックに戻ってブリッジから入ってくるセイコさんの清楚な歌声は80年代後半「SUPUREME」の頃を彷彿とさせる素晴らしいボーカルで、聴きどころ満載の1曲。地味ながらキラリと光るこの曲で締めくくるのも、アルバム『Forever』の好印象のひとつの要因かもしれない。

 このアルバムのあと、聖子さんは久々に松本隆氏と組んで翌年に『永遠の少女』をリリースすることになるのだけど、そう考えると『Forever』はもしかすると彼女的にも“これでひと区切り”な感じもあったのかな〜?などと思うのだけど、邪推かしらね。