セイコ・アルバム探訪26〜『Guardian Angel』&『Sweetest Time』

 今回は、90年代発表のミニアルバム二題。まあ、コレクターズ・アイテムには違いないのだけれど、いま聴くと「あ〜、聖子ちゃんがやりたかったのは、これなんだろうな〜」というのが良くわかる感じだったりする。つまりは、オリジナルアルバムの狭間にリリースした、このちょっと肩の力が抜け過ぎたような、中途半端な感じの作品(笑)にこそ、聖子さんの趣味嗜好が最も色濃く出ている気もするのよね。その意味で、聖子ファンであるなら十二分に楽しめる世界であると思うし、セルフ以降の彼女を多少なりとも受け入れることが出来た人であればむしろ、聖子さんがやりたいことを思う存分楽しんでいる印象のあるこれら2作品はむしろ「必聴」の、まさにコレクターズ・アイテムと言えるのかもね。
  ではまず、アルバムの紹介から。
 『Guardian Angel』は1996年12月発売のミニアルバム。Guardian Angel(紙ジャケット仕様)90年代に活躍した超美女シンガーで塩野義のCMでもおなじみ、バネッサ・ウィリアムスの全米No1ヒット「Save The Best For Last」のカバーに、あら懐かしやEXPOSE(エクスポゼ)の「I’ll Never Get Over You Getting Over me」のカバーを、それぞれ日本語、英語で歌い、これで4曲分。そして96年の聖子さんのアルバム『Vanity Fair』から「もし、もう一度戻れるなら・・・」のセルフ(イングリッシュ)カバーした「If Only…」に、当時の最新シングル「さよならの瞬間」を収録しての、全6曲・・・中途半端でしょ(笑)? ちなみにこのアルバム、プレゼント仕様になっていて、銀色の化粧箱にCD、オリジナルデザインのトランプ、メッセージカード入り。ジャケットには聖子さんのメッセージ「愛の言葉を添えて・・・大好きな人へ贈ってください」。でも、いざこれをプレゼントとして貰ったほうとしては、戸惑うこと必至・・・みたいな(苦笑)。
 そしてもう1枚の『Sweetest TimeSweetest Time(紙ジャケット仕様)は翌年1997年12月発売のミニアルバム。こちらはシングルとして同時リリースされた「Gone With the Rain」と書下ろし新曲「Why Say Goodbye」の2曲を日本語・英語バージョンで収録。これで4曲分。それにクリスマス向けの書下ろし作品「KissしてX’mas」と90年代の聖子の代表曲「あなたに逢いたくて」の英語バージョンを収録して全6曲。やっぱりこっちも何だか、中途半端ね(笑)?
 さて、この中途半端な2作品を評価するにあたっては、90年代後半の聖子の動きとからめて考えるとわかりやすいのかな?なんて思うのね。まず96年発表の「あなたに逢いたくて」が自作としてはもとより、彼女の全作品初となるミリオンヒットを記録。その勢いを駆って同年「さよならの瞬間」翌年「Angel〜私だけの天使」が連続トップ5入りのスマッシュ・ヒットしたのね。そしてロビー・ネヴィルのバックアップで夢に向かって再チャレンジした全米発売盤『Was It The FutureWas It The Future(紙ジャケット仕様)をリリースして、現地のダンス・チャートで一定の成績を収めもした。国内のオリジナルアルバムでは『My Story』(97年)『Forever』(98年)がともに、地味ながらもセルフ期としては佳曲も多く内容的に充実したものを作り上げたりと、この時期、聖子さんとしては、90年代前半から続けてきた一連のセルフ・プロデュース作業に、確かな手応え(成果のようなもの)を感じていたのではないかな?なんて想像するのだ。その結果、その後は久しぶりに松本隆さんと組んだり(99年『永遠の少女』)、原田真二鳥山雄司とコラボしたり(2000年〜2005年)、つまりは一時的にセルフ・プロデュースへのこだわりを解いたのかもしれないなと思う。そんな自信に溢れた時期にリリースされたこの双子のようなミニアルバム2作、ここでの聖子さんは得意の英語を駆使して「洋楽バラード」の世界を存分に楽しみながら歌っている。
 そう、彼女の目指している(いた)音楽というのは、間違いなくその方向。どこまでも洗練された上品で美しいメロディーと、それに乗る滑らかなイングリッシュ。これね。(もっとも、聖子さんのイングリッシュは、???だけどね。)
 そしてその方向性を突き詰めた感のあるこの2作、聖子さんの艶やかに輝く声と、美しいメロディーが醸し出す透明感が素晴らしく、小品で薄味な印象は拭えないものの、振り返ればこの世界観こそ、90年代以降の「歌手・松田聖子」の本質のように思えたりしてくる(それは遡れば91年発表の佳作『Eternal』に行き着くわけね)。最新シングル「夢がさめて」に感じる“洋楽的世界”もきっと、このあたりがルーツね。

Guardian Angel
 1 Save The Best For Last (Japanese Version)
 2 I’ll Never Get Over You Getting Over me (Japanese Version)
 3 If Only…(もし、もう一度戻れるなら)
 4 Save The Best For Last
 5 I’ll Never Get Over You Getting Over me
 6 さよならの瞬間
 「Save〜」はやや無理のある英語バージョンより、日本語バージョンの“しゃくり上げ”たっぷりの切ない歌唱に軍配。聖子さんが完全に自分のものにしている。「I’ll Never〜」は本家のフレーズを忠実に再現した英語バージョンが新鮮で、Good。「If Only」はリョー小倉&聖子コンビの作ながら、英語になると平凡なメロディーが意外に洋楽っぽく聴こえるのが不思議。まあ、もともと洋楽のパクリだから当然か(苦笑)。。

Sweetest Time
 1 Gone with the rain
 2 Why say goodbye
 3 KissしてX’mas
 4 Gone with the rain (English Version)
 5 Why say goodbye (English Version)
 6 あなたに逢いたくて〜Missing You〜(English Version)
 このアルバムは全曲、Seiko&Ryoの書下ろし。1はアレンジが「Tears In Heaven」のパクリ(←コメントを頂き訂正です、「Change The World」のパクリでした。)でイタダケナイけど、乾いた寂寥感が中々味のある、佳曲ではある。アルバム『Forever』の世界感に近い印象で、聖子さんにはカントリー・ロックが意外に似合う。2もその延長線上にあるミディアム・ポップスで、こちらは力を抜いてサラリと歌っている聖子さんの声に漂う“さわやかな哀愁”が良い。ともに英語バージョンは、聖子さんの日本語で歌うときの独特の節回しがクリーンアップされている印象で、純粋に聖子さんの透明なボーカルを愉しむなら、English Versionがオススメ。3はホイットニーの「Saving All My Love〜」を狙ったハチロクのバラード、可もなし不可もなし。6のEnglish Versionは、大ヒットの安易な英訳というアイデアは“トホホ”だけれど、そのぶん、歌い出しのウィスパーをはじめ、聖子さんのボーカルがとても新鮮な印象のサプライズ的作品。

 さすがに2作の紹介だけあって、長くなってしまいました。。。(汗)ちなみに2枚とも、今はかなり廉価で手に入りますので、もしご興味あればどうぞ。

Guardian Angel(紙ジャケット仕様)

Guardian Angel(紙ジャケット仕様)

Sweetest Time(紙ジャケット仕様)

Sweetest Time(紙ジャケット仕様)